研究課題
血清コリンエステラーゼ(ChE)活性低下を来すIgG4関連疾患(IgG4RD)の症例をしばしば経験する。IgG4RDにおける血清ChE活性の意義についての研究結果を以前にRheumatology Advances and Practive誌に掲載され、現在も症例数を増やし検討継続中である。研究方法としては、IgG4RD 70例を対照群(健常対照、血管炎(AAV群)、シェーグレン症候群(SjS群))と比較し、臨床症候・所見、臓器病変数、各種血清学的検査、各種サイトカインなどを後方視的に解析した。研究の結果として、IgG4RD 60例のうち、低ChE活性を呈した34例の血清ChE活性(130.5±40.2U/L)は、36例のChE正常群(316.2±60.5 U/L)や健常対照群、AAV群、SjS群と比較して有意に低かった。またIgG4RD患者において、低ChE活性群における臓器病変数(5.3±1.1)は、正常ChE活性群(1.7±1.2)よりも有意に多かった。低ChE活性群では治療開始後ChE活性の改善を認め、疾患活動性と合致した。多臓器病変を有するIgG4RDにおけるChE値は、各種サイトカイン値や血清学的炎症反応の値などの影響を受けず低値であったのに対し、AAV群のChE値は、各種サイトカイン 値や血清学的炎症反応の値などの影響を有意に受けた。さらにIgG4RDのChEは、線維化マーカーDKK-1やTGF-βとの有意な相関を認めた。本年度の結論として、IgG4RDにおいて、血清ChE活性は病変広がりおよび活動性の指標として、さらにN数を増やすことで有用性が高まった可能性がある。IgG4関連疾患の腫瘍化の検討において、悪性腫瘍の既往または疾患発症後の悪性腫瘍の発症の頻度が有意に高く、悪性腫瘍発生に関与する因子を同定中であり、さらに集積し、解析予定である。
3: やや遅れている
COVID-19の影響もあり、診療への従事時間も増え、また、患者さんの受診頻度も減少したことで、検体採取の機会が減ったことも影響し、少々の遅れが生じている。
COVID-19が収束に向かっており、またCOVID-19への対策もできており、患者さんの受診も戻ってきているため、検体採取を小まめに行い、研究のスピードを上げ ていく予定である。患者通院の回数が減少したことにより検体採取などが停滞したため、次年度への延期が生じた。本年度は通常に戻っており、下記のように進める予定である。1)IgG4関連疾患の病態解明、診断や治療におけるバイオマーカーの発見・開発:本邦を中心に、本疾患における病態関連候補遺伝子や、炎症や線維化に関与する蛋白などの解析が注目されている。本申請では、本疾患におけるサイトカインや臨床症状の表現型を比較解析することにより、病態促進因子を特定し、その進展機序の解明を目的とする。一方、IgG4関連腎臓病変において治療介入遅延が線維化進行を来し、不可逆性となり臓器障害が残る、また臓器萎縮の進行をもたらすことを報告している。さらにIgG4関連疾患の臓器病変数や線維化を反映するバイオマーカーとして血清コリンエステラーゼの可能性を報告している。IgG4関連疾患の診断・治療前後で線維化に関連する蛋白などの解析を行い、新たな診断および治療のバイオマーカーを見出していく。2)IgG4関連疾患と悪性腫瘍や肉芽腫病変などの発生との関連についての検討:IgG4関連疾患の悪性腫瘍合併の症例報告が散見され 、高齢化社会である日本において、本疾患と悪性腫瘍リスクの関連については取り組まれるべき課題の一つである。疫学的な方法に基づき、IgG4関連疾患と悪性腫瘍の合併頻度と関連性、将来的な悪性腫瘍リスクを明らかにする。
患者通院の回数が減少したことにより検体採取などが停滞したため、次年度への延期が生じた。本年度は通常に戻っており、研究を進めていく。保存血清や保存尿を用いたELISA測定のための試薬などの新規の購入を行い、また統計ソフトなどの更新を行うなど、これらの費用に当てていく予定である。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Kidney International Report
巻: 9 ページ: 52-63
10.1016/j.ekir.2023.10.016
Arthritis and Rheumatology
巻: 75 ページ: 1685
10.1002/art.42517