研究実績の概要 |
本研究は乳幼児発症食物アレルギーに焦点を絞り、遺伝要因およびメタボロミクス解析を行い、科学的な病態解明を行うことを目的とする。 慈恵大学小児科外来を受診している乳児期発症食物アレルギー患者を(3年間で300症例以上を予定)を新規に収集する予定であるが、本年度はゲノムと血清のサンプル収集について、倫理委員会より承認を受け、サンプル収集を開始した。 また、既収集サンプルを活用して遺伝要因の探索として3つの遺伝バリアント(GSDMB; rs921650, FCER1G; rs2070901, MALT1; rs57265082)を日本人集団の連鎖不平衡も考慮して選択し、タイピングを行ない、症例対象関連解析を行なった。rs921650およびrs2070901は気管支喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎の大規模GWAS(Nature genetics 2017;49:1752)で関連が示された領域のバリアントであり、rs921650は17q12のORMDL3, CCR7, RP11-94L15.2, ZPBP2, GSDMBの領域に存在し、rs2070901はUSF1, F11R, PPOX, ADAMTS4, B4GALT3, FCER1G領域の遺伝バリアントである。これらの領域内のCCR7とF11Rは、ドラッグリポジショニング解析で阻害薬が開発中であることが示されている。rs57265082はピーナッツアレルギー感受性MALT1領域(JACI 2019;143:2326)で最も関連の強いバリアントである。 rs2070901とrs57265082では関連が認められなかった。一方、GSDMB rs921650 G/Aにおいて, 有意水準(P<0.05)に満たないものの、Control; G 587(0.29) A 465 (0.71), Case G 138 (0.24) A 426 (0.76) P=0.052 OR 0.81 (95%CI 0.65-1.00)とAアレルが食物アレルギーとの関連する傾向を認めた。Aアレル頻度はCaseで高く、喘息、アトピー性皮膚炎とリスクアレルの方向性は一致していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慈恵大学小児科で乳児期発症食物アレルギー患者を(3年間で300症例以上を予定)を主な対象とする予定であるが、本年度、ゲノムと血清のサンプル収集について、倫理委員会より承認を受け、サンプル収集を開始した。 本年度は遺伝要因の探索として専門医による診断を受け、経口負荷試験陽性または食物摂取後に明確な臨床症状を呈した食物アレルギー282症例(あいち小児保健医療総合センター)について症例対照関連解析を行なった。コントロール症例については日本人の公開データベース(理化学研究所JENGER https://www.ims.riken.jp/databases/ims_db_ct/index.php )より1026名のデータからタイピング結果を取得した。FCER1G rs2070901 G/Tについては P=0.886、また MALT1 rs57265082 G/TについてはP=0.842と関連を認めなかった。GSDMB rs921650 G/Aにおいて, 有意水準(P<0.05)に満たないものの、Control; G 587(0.29) A 465 (0.71), Case G 138 (0.24) A 426 (0.76) P=0.052 OR 0.81 (95%CI 0.65-1.00) とAアレルが食物アレルギーとの関連する傾向を認めた。喘息、アトピー性皮膚炎とリスクアレルの方向性は一致していた。 遺伝要因には人種特異性があることから、日本人の集団における遺伝解析の重要性が指摘されている。海外でピーナッツアレルギーのGWAS等が行われ、食物アレルギーの関連領域が同定されてきているが、日本人での検証はいまだ十分でない。現在、3つの遺伝バリアントについて検討しているが、今後は順次、検討するバリアントを増やし、さらに独立に収集した集団での検証、メタ解析を行いて検討していく予定である。
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