研究課題/領域番号 |
20K08827
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研究機関 | 帝京平成大学 |
研究代表者 |
斧 康雄 帝京平成大学, 健康メディカル学部, 教授 (10177272)
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研究分担者 |
西田 智 帝京大学, 医学部, 講師 (10409386)
永川 茂 帝京大学, 医学部, 講師 (50266300)
佐藤 義則 帝京大学, 医学部, 講師 (90455402)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アシネトバクター・バウマニ / マウス感染モデル / 好中球 / マクロファージ / バイオフィルム / 抗菌薬 |
研究実績の概要 |
Acinetobacter baumannii (A.b)の病原性の一つにバイオフィルム形成能がある。多剤耐性A.b(MDRA)の治療薬であるコリスチン(CST)やチゲサイクリン(TGC)のバイオフィルム形成能に及ぼす併用効果を解析した。臨床分離のMDRA2株を用いてバイオフィルム形成後に、CSTやTGCを単独または併用で作用させ、バイオフィルムから遊離する菌とバイオフィルム内の菌に対する殺菌効果およびバイオフィルム形成量を解析した。バイオフィルム外や内部の菌に対しては、高濃度CST+高濃度TGCの併用は殺菌効果が増強したが、高濃度CST+低濃度TGCでは減弱し、低濃度CST+低濃度TGCの併用ではバイオフィルム形成量が増加した。併用療法を実施する際には投与法に注意が必要があることが示唆された(Sato T,et al: Sci Rep. 2021)。A.bの病原性を明らかにするためにマウスA.b肺炎モデルを確立した。マウスにA.bの2株(ATCC 19606、臨床分離株TK1090)と緑膿菌PAO-1を肺感染させ、マウスの生存率、肺での細菌数、組織病理学的変化、病巣の好中球とマクロファージ(MΦ)の集積の程度を分析した。2株のA.b感染マウスの致死率は緑膿菌感染マウスの致死率よりも低かった。致死量より少ない量のA.bを接種した場合、感染後14日までマウス肺にA.bが残存し、MΦはA.bおよび緑膿菌感染マウスの肺病巣に浸潤していた。好中球はA.b感染マウスの肺病巣に浸潤していたが、緑膿菌感染肺病巣にはほとんどみられなかった (Tansho-Nagakawa S,et al: Pol J Microbiol, 2021)。A.b感染後の肺において食細胞が浸潤するにもかかわらずA.bが排除されずに生存しており、我々の既報のin vitroでの成績を反映するものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年4月から所属先の変更と教育・研究環境が大きく変化したが、共同研究者とこれまで得られた研究結果の解析を継続した。主に、論文執筆のための文献検索や論文執筆作業を実施し、新型コロナのパンデミックで国際誌の査読者とのやりとりに時間を要したが、国際誌に2報の論文が受理され公表できた。また、国内関連学会において本研究課題に関する教育講演を招請されたので、その発表の準備などを行った。コロナ禍での研究時間の制限もあったが、病原因子解析のため本菌の全ゲノム解析を実施し、バイオフィルムをターゲットとした治療/予防法の開発や新規抗菌薬を用いた治療法の開発などを進め興味ある成績が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
1)好中球や単球・MΦと多剤耐性A.baumannii(MDRA)との相互作用から本菌の病原性を解明する: 特に、A.baumanniiは莢膜保有菌で、その貪食には莢膜特異抗体が必要であるが、莢膜欠損株やOMP欠損株、LPS欠損株を作成し食細胞による貪食作用の違いがみられるか野生株と比較して検討する。抗菌薬処理後の食細胞の貪食殺菌能に及ぼす影響についても検討する。 2)A.baumanniiのバイオフィルム形成能に関する分子機構を詳細に解析する。 3)試験管内での変異株の増殖能、薬剤感受性などの病原性やin vivo で昆虫感染モデルを用いて、変異株の病原性の解析を行う。 4)A.baumannii変異株や菌体成分から病原性発現に関与する分子を探索する:本菌は環境中に存在している状態と、in vitroで培養されている状態および患者の体内に定着・増殖している状態では、発現する遺伝子やタンパク質が異なると考えられる。表現型の異なる変異株と親株菌体に対する好中球やMφの応答性の違いを、貪食殺菌能、オプソニン化、食細胞膜上の抗原発現、NETs形成能などを指標にして解析する予定である。 5)本菌を含む薬剤耐性菌の迅速診断法についてβラクタマーゼ産生の有無を中心に解析し、 MDRAに対する新規抗菌薬の抗菌活性の測定や他剤との併用による効果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は職場変更による移動で研究環境が大きく変化したため、主に2つの論文のデータ解析や論文執筆に時間を費やした。研究は追加実験のみであったため、マウスや試薬などの購入の必要がなくなり、助成金の使用額は少なくなった。2022年度は、研究成果の公表や最新の情報収集のために学会に参加するとともに、研究用の試薬類や物品購入、遺伝子解析のために研究費を使用する予定である。
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