研究課題
全世界の糖尿病罹患者は2021年で5億3700万人と推計されている。インスリンを分泌する膵β細胞の障害は、糖尿病の原因となる。我々はこれまでに、膵β細胞が、その発生、分化、機能に重要な転写因子の発現低下により脱分化すること、糖尿病ではその脱分化が膵β細胞障害の原因となる事を明らかにしてきた。本研究ではこれまでに、網羅的遺伝子発現解析により、成熟分化過程や病態時の膵β細胞における遺伝子発現プロファイルを解明し、成熟分化過程の膵β細胞では、発現が抑制される多くの遺伝子が認められること、そして糖尿病においては、成熟膵β細胞特異的な遺伝子発現抑制が破綻していることを明らかにしている。本年度は引き続き、成熟膵β細胞特異的な遺伝子発現制御メカニズムと、その破綻が膵β細胞機能に与える影響を解析した。まず、前年度までの網羅的遺伝子発現解析で同定された、成熟膵β細胞で発現が抑制され、糖尿病時に発現が増強する遺伝子について、その発現を制御する転写因子の候補を同定した。次に、それら転写因子の生理的あるいは糖尿病時の膵島におけるmRNAならびに蛋白発現を、qRT-PCRと免疫組織化学法で明らかにした。また、成熟膵β細胞で発現が抑制されている遺伝子の発現制御領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を持つレポーターベクターを作成して、それら転写因子が標的遺伝子の発現を活性化するかどうかについて解析した。またレンチウイルスベクターで、それら転写因子の発現を誘導したマウス膵島における、標的遺伝子やグルコース刺激インスリン分泌に重要な分子の発現を解析した。これらの結果より、成熟膵β細胞に特徴的な遺伝子発現制御メカニズムとその生理的重要性、ならびにその破綻と膵β細胞障害との関連が、明らかになりつつある。
3: やや遅れている
新型コロナウイルス感染症の影響で研究活動が制限され、実験が計画通りに進まなかったため。
今後は、成熟膵β細胞特異的に発現が抑制されている遺伝子について、その発現制御領域のDNAメチル化を解析して、発現抑制メカニズムとの関連を解明する。また、これまでに本研究により同定された、成熟膵β細胞特異的な遺伝子発現抑制を制御する転写因子とその標的遺伝子の、膵島あるいは膵β細胞における強制発現の影響を詳細に解析することにより、成熟膵β細胞に特徴的な遺伝子発現制御メカニズムとその意義を解明する。特に、その発現変動が膵β細胞機能に与える影響を細胞あるいは個体レベルで解析して、糖代謝制御における標的遺伝子やその上流の転写因子の機能を解明し、糖尿病の病態メカニズムに対する重要性を明らかにする。
次年度使用については、新型コロナウイルス感染症の影響で研究活動が制限され、実験が計画通りに進まなかったため生じた。繰り越した研究費は、研究計画通りに使用される。すなわち、成熟膵β細胞特異的に発現抑制される遺伝子について、その発現抑制メカニズムを解明するとともに、それら遺伝子の発現増強が膵β細胞機能を障害するかどうか、発現抑制が膵β細胞機能を改善するかどうかについて明らかにするために、使用される。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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