研究課題/領域番号 |
20K09137
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
古荘 文 久留米大学, 医学部, 助教 (80597427)
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研究分担者 |
青木 浩樹 久留米大学, 付置研究所, 教授 (60322244)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大動脈解離 / 免疫グロブリン / 炎症応答 |
研究実績の概要 |
大動脈解離は大動脈壁の急速な破壊が突然起こる疾患である。炎症応答が大動脈壁の破壊で重要な役割を果たすとされているが、前兆なく発症するため発症前に何が起こるかは不明で炎症応答がどのように起こるかも不明である。各種炎症細胞マーカーの免疫染色によりヒト大動脈組織に浸潤する炎症細胞を解析したところ2つの細胞クラスターが認められた。1つのクラスターは好中球とマクロファージからなっており、もう1つのクラスターはヘルパーT細胞サブセットとB細胞からなっていた。後者のクラスターではB細胞をハブとする相関関係が認められ、解離病態にB細胞が関与する可能性が示唆された。大動脈解離のマウスモデルでもB細胞が浸潤し中膜断端に集簇していた。さらに解離発症に先立ち大動脈中膜には免疫グロブリンおよびヘモグロビンの沈着が認められ、血管バリア機能の破綻が示唆された。このバリア機能破綻は細胞内メカノトランスダクション分子であるFAK活性に依存的であった。FAK阻害薬はバリア機能破綻を阻止し、また解離に先立つ大動脈壁の酸化ストレスと解離の増悪を抑制した。解離発症直前の大動脈壁のトランスクリプトーム解析では炎症応答関連分子の発現増加が認められた。トランスクリプトーム・データのネットワーク解析では、炎症応答関連分子が複数のサブネットワークを形成することが示され、1つのサブネットワークにはB細胞および免疫グロブリン関連遺伝子群が濃縮されていた。マウス解離発症はB細胞欠損マウスで抑制されていたが、この抑制は外因性の免疫グロブリン投与により解除された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大動脈解離において発症に至るまでに血管バリア機能の破綻、免疫グロブリンとヘモグロビンの組織沈着および大動脈壁の酸化ストレス亢進が起こることが明らかになった。バリア機能破綻にFAKの活性化が関与することが示された。発症前には炎症応答関連遺伝子群の発現亢進が起こることが示された。炎症関連遺伝子群はいくつかのサブネットワークを形成し、その1つにB細胞および免疫グロブリン関連遺伝子群が濃縮していることから、解離における炎症応答にB細胞および免疫グロブリンが関与する可能性が示された。組織学的にもマウス解離モデルでB細胞浸潤が認められ、ヒト解離組織でB細胞を中心とする細胞クラスターが認められた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究実施で、FAK活性化、血管バリア機能破綻、ヘモグロビン沈着、免疫グロブリン沈着、大動脈壁の酸化ストレス、B細胞およびヘルパーT細胞浸潤が解離発症に先立って起こり、これらを反映して複数の炎症応答サブネットワークが活性化することが示された。今後、これらの要素に着目した空間トランスクリプトーム解析を行い要素相互の関連を解き明かしてゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
期間の前半には新型コロナウイルス感染症蔓延の影響等を受け動物実験費用や実験試薬購入費用が予定より少なくなった。予定より実験実施分量は少なくなったがこれまでに蓄積した検体の分析やデータ解析により、解離発症に関与しうる種々の要素を同定し得た。今後は同定された要素に着目した空間トランスクリプトーム解析を実施し、要素相互の関連を解明するために助成金を使用する予定である。
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