研究課題
本研究の目的は1) ブレイクスルー症例を対象に初交年齢・ワクチン接種年齢を聴取することで接種時に既感染が疑われる患者の割合を推定する2) 初交前に適切にワクチン接種を行っていた症例ではHPVゲノム解析中和活性測定を行い,現行のワクチンでは予防できない変異ウイルス(variant) を探索することである.今年度は子宮頸癌ワクチン接種後に子宮頸部前癌病変・子宮頸癌を発症した症例で接種年齢と初交年齢について検討した。子宮頸部高度前癌病変(CIN2-3/AIS)や子宮頸癌(ICC)と診断された集団での初交年齢が他の集団よりも早く、16歳には約半数が初交を経験していた。また15歳までに接種された集団には現時点ではHPV16/18陽性CIN2-3/AIS, ICCを発症した症例はなかった。同様に初交前にワクチンを接種できた集団にも発症した症例はなく、同様に初交後3年以内であればそれ以降よりも有意に発症を抑制できていた。本成果は現在我が国の公費接種年齢が手遅れになる可能性を示唆し、キャッチアップ接種者に対しても有益な情報になり得る。またワクチン世代において、ワクチンを接種していない集団においてもHPV16/18陽性子宮頸部前癌病変患者が他年代よりも有意に低く、集団免疫を獲得できていたことを示唆した。そのほか、HPV DNA解析からも知見を得た。HPV67は低リスク群に分類されるがCINやICCで検出される場合もある。HPV67を次世代シークエンサーを用いて解析したところ、その多数がA variantであり子宮頸癌で検出されたHPV67は全てA1であった。またHPV52はアジアでより多く検出される高リスクHPVであるが、西日本においてより多く子宮頸部病変から検出されることを発表し、子宮頸癌ワクチン効果を観察する上で留意すべき点であることを示唆した。
3: やや遅れている
本研究は日本医療研究開発機構(AMED) 感染症実用化事業としてHPVワクチンの有効性を検証する疫学研究「思春期女性へのHPVワクチン公費助成開始後における子宮頸癌のHPV16/18陽性割合の推移に関する疫学研究」(MINTスタディII) (研究代表者:松本光司, 研究事務局:小貫麻美子)で登録された症例の中からブレイクスルー症例を抽出し、詳細に解析するという研究デザインである。しかし、2022年3月でAMED研究の期限が切れ、2022年6月に日本医療研究開発機構(AMED)で再度採択され、研究を再開した。しかし研究が中断したことにより、全体の症例蓄積が例年の6割程度になってしまった。現在症例登録を促すために研究事務局として色々な方策を練っている。
2022年度から新たに3年間の研究が継続可能になり、ワクチン接種者に対する血清抗体の測定も新たに追加された。この中には子宮頸部の病変を有さない健常人コントロールも含まれるため、子宮頸癌ワクチン接種者のなかでブレイクスルー患者と病変を有さない集団、ワクチンで予防できていないHPV型に感染している集団との血清抗体価での比較も可能になると期待される。また、HPVバリアントの解析の面からのブレイクスルー症例の検討も継続する。
研究結果を国際学会で発表することも考慮していたが、感染状況などによりそれが難しくなった。それにかかるスライド・ポスター作成や旅費が計上されなかった。また、ブレイクスルー症例に対するHPV DNA解析に使用するための費用が現在予定されていたよりも少なく済んでいることも一因であると考えている。次年度では引き続きブレイクスルー症例の検討と、その症例に対するHPV DNA解析、血清抗体測定・解析に使用する。また、引き続き積極的に論文作成・学会発表を行うことで研究成果の公表に努める。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
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