研究課題
申請者は、次世代シーケンサーを用いて鼻茸のRNA-seqにおけるtranscriptome解析を行ってきた。その結果、TRPV3が好酸球性副鼻腔炎の鼻茸、特に鼻粘膜上皮に強く発現しており、TRPV3と好酸球に正の相関があることを発見した。TRPV3が好酸球性副鼻腔炎の病態に深く関与していることは間違いないが、どのように難治性鼻茸に関わるかは不明である。申請者は、好酸球性副鼻腔炎におけるTRPV3の機能解析に関する研究を行っている。上皮細胞から産生される上皮由来サイトカイン、好酸球遊走因子、cystatin familyの一つであるCST1や、線維芽細胞から産生されるperiostinは、好酸球性副鼻腔炎の病態に関わる重要な因子である。そこで、気道上皮細胞株や線維芽細胞株を利用して、TRPV3活性によってそれぞれの細胞にどのような影響を及ぼすかを検討した。鼻茸上皮細胞株・鼻茸線維芽細胞株をTRPV3 agonistで刺激し、Th2/好酸球性炎症関連因子(TSLP、IL-33、IL-25、Eotaxin 1-3、RANTES、CST1、periostin、IL-5)の産生をreal-time PCRで解析した。気道上皮細胞株・線維芽細胞株をTRPV3アゴニストで刺激すると、好酸球遊走・活性化因子であるRANTESの発現が有意に上昇した。TRPV3アンタゴニストを加えるとRANTESの発現は抑制された。つまり、鼻粘膜においてTRPV3が好酸球遊走能を有する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
申請者は、好酸球性副鼻腔炎の鼻茸内に、カルシウム透過性カチオンチャネルであるTRPV3が高発現していることを発見した。TRPチャネルは、ナトリウムイオンやカルシウムイオンを細胞内に透過させる非選択的陽イオンチャネルである。カルシウムイオンは、セカンドメッセンジャーとして細胞内における様々な反応の根幹を担っている。好酸球性副鼻腔炎においても同様であり、カルシウムイオン流入の制御は、鼻茸組織内での2型炎症に関わる様々な反応を抑制し、Th2/好酸球性炎症を抑える効果が期待される。TRPチャネルの中でも、特にTRPV3は好酸球性副鼻腔炎の病態に密接に関連している。つまり、TRPV3を制御することができれば、これまでとは全く異なる好酸球性副鼻腔炎の新規治療薬の開発が可能となると考えられる。実際に本研究において、気道上皮細胞株・線維芽細胞株をTRPV3アゴニストで刺激すると、好酸球遊走・活性化因子であるRANTESの発現が有意に上昇した。さらにTRPV3アンタゴニストを加えるとRANTESの発現は抑制された。鼻粘膜においてTRPV3が好酸球遊走能を有する可能性が示唆された。以上より、好酸球性副鼻腔炎におけるTRPV3の機能解析が進んでおり、本研究課題の進捗状況として、おおむね順調に進展している。
好酸球性副鼻腔炎におけるTRPV3の機能解析を行う。① 細胞内カルシウムイオン濃度の測定:鼻茸内でのTRPV3の作用が、カルシウムイオンを介した反応であるかを評価する。鼻茸上皮細胞株・鼻茸線維芽細胞株・肥満細胞株をTRPV3 agonist(I-menthol;1-1000uM)で刺激し、細胞内のカルシウムイオン濃度の動態を解析する。カルシウム濃度を測定する蛍光プローブは、Fluo 4-AMあるいはFura 2-AMを使用し、蛍光プレートリーダーや蛍光顕微鏡を用いて評価する。② 肥満細胞株の検討:肥満細胞株をTRPV3 agonistで24-48時間刺激して上清を回収し、放出因子(tryptase、IL-5、IL-13、leukotriene)の濃度をELISAにより解析する。また、肥満細胞株やラット好塩基球性白血病細胞RBL-2H3を、TRPV3 antagonistで前処理をした後にβヘキソサミニダーゼを測定し、TRPV3の脱顆粒抑制能を検証する。③ 好酸球性炎症モデルマウスを用いて、TRPV3と好酸球浸潤の関連を解析する。具体的には、TRPV3アゴニストやTRPV3アンタゴニストをマウスに経鼻投与し、鼻粘膜好酸球浸潤を評価する。
(理由)本研究を着実に遂行するにあたり、手術で採取した鼻茸から上皮細胞や線維芽細胞を精製し、培養するための試薬が必要であった。また、TRPV3 agonistやantagonistをはじめとする培養細胞を刺激するための各種試薬、刺激後の解析に必要なreal time PCRのための試薬やELISAキットが必要であった。また、成果を発表するための国内旅費が必要であった。研究を進めていく上で本年度使用額は適切な額であった。次年度研究に向けて残額を繰り越し、使用することが望ましいと考えられた。従って次年度使用額が生じた。(使用計画)各種細胞株の精製、培養に必要な試薬に使用する。また、マウスを対象とした実験を遂行するため、マウスの購入、飼育費に使用する。マウスに投与する抗原、組織染色、フローサイトメトリーに必要な試薬などを用いて実験を行う。研究成果は英語論文にて発表する。また、成果を日本耳鼻咽喉科学会、日本鼻科学会、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会、日本アレルギー学会、国際学会などで発表することで社会への発信を予定しており、使用を計画している。
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