涙液の基礎分泌の調節や目の乾燥感の発生は、涙液蒸発による眼表面の温度低下を検出する角膜の冷感受性感覚神経の興奮と関連している。本研究では、はじめに角膜感覚神経の制御において今まで注目されていなかった内因性アセチルコリンに焦点を当て、アセチルコリンがどこからどのような刺激で遊離されて、冷感受性神経の温度感受性や興奮性にいかなる影響を与えているか明らかにした。 令和2年度ならびに3年度はアセチルコリン受容体リガンドを用いて、ニコチン受容体が角膜神経の発火活動を興奮性に調節していることを明らかにした。また、この調節は、ニコチン受容体のうちα4β2受容体が関与していることも確認できた。角膜における内因性アセチルコリンの分泌源を探るため、免疫組織染色によりコリンアセチルトランスフェラーゼを発現する細胞と神経線維の位置を明らかにした。ChATは、上皮細胞の基底部に局在しており、その細胞間隙を神経線維が走行していた。 最終年度は、角膜におけるアセチルコリン合成と遊離を確認した。さらに、ドライアイモデル動物の角膜におけるアセチルコリンを介した冷感受性神経の制御機構の変化を調べた。角膜切片を[3H]cholineを含む生理食塩液に浸したところ、時間依存的に[3H]cholineは組織内に取り込まれた。また、HPLCによる計測で、取り込まれた[3H]cholineの一部は[3H]acetylcholineに変換されていることが確認できた。また電気刺激を与えると,組織から[3H]が流出した。次に、ドライアイモデルモルモットの角膜を摘出してChAT発現量を調べたが、発現量に変化はなかった。ニコチンに対する冷感受性神経の応答は、モデル動物で顕著に低下していたが,一部の神経線維で正常なものよりも顕著に大きい応答を示すものも存在した。ニコチンによる瞬目応答は、モデル動物で有意に増加した。
|