研究課題/領域番号 |
20K09914
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
中島 和久 鶴見大学, 歯学部, 講師 (90252692)
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研究分担者 |
二藤 彰 鶴見大学, 歯学部, 教授 (00240747)
出野 尚 鶴見大学, 歯学部, 助教 (40435699)
小松 浩一郎 鶴見大学, 歯学部, 准教授 (60153665)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 破骨細胞 / 細胞分化 |
研究実績の概要 |
破骨細胞は血球系の単球・マクロファージ系の細胞に由来する多核細胞で、特徴的な形態と機能を発揮する細胞群である。この細胞の機能解析にウイルスベクターを用いた遺伝子導入法が用いられてきたが、ウイルスベクター感染の効果については定かではない。 我々は、培養マウス骨髄細胞の破骨細胞への分化の過程で、アデノウイルスベクターによりcDNAを発現するとTRAP陽性細胞の出現は認められるものの、その融合が極めて抑制されて、多核破骨細胞の形成が低下することを見出した。この抑制はベクターから発現するcDNAの配列に非依存的であり、GFP、beta-galactosidase、CreリコンビナーゼのいずれのcDNAも抑制した。この抑制作用はcDNAを含まないベクターでは認められないことから、転写と翻訳に依存することが予想できる。 ウイルス感染では、ウイルスゲノムあるいはウイルス構成タンパク質がパターン認識受容体の標的となる。アデノウイルスベクターの感染ではエンドソーム内でDNAセンサーToll-like receptor 9がウイルスゲノムを認識して下流の炎症性サイトカイン発現が促進することが知られているが、そのサイトカインの1つinterferon betaは破骨細胞形成に抑制的であることが報告されている。ウイルスベクター感染による破骨細胞形成の抑制がサイトカイン合成を経由するのか、感染細胞内での転写と翻訳に依存するのかを区別するために、シグナル強度の高いCOP-GFPを感染させた。するとGFP陽性細胞にのみ破骨細胞形成の抑制が現れた。従って、ウイルスベクター感染による破骨細胞形成の抑制は感染細胞内での転写と翻訳に依存すると考えられる。本内容の一部は第43回日本分子生物学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)アデノウイルスベクターによる導入遺伝子の発現パターンと細胞融合の経時的解析 マウス骨髄細胞培養系でRANKL刺激24時間前にアデノウイルスベクターにて遺伝子導入すると細胞融合は抑制されるが、RANKL刺激24時間後に遺伝子導入すると細胞融合は抑制されなかった。ウイルス感染の効率と表現型の関係を検討するために、マウス骨髄細胞にへの導入効率をウイルス表面抗原に対する抗体での免疫染色法にて標準化した。その結果、cDNAを含むウイルスと含まないウイルスで感染効率に大きな差はないものの、表現型の再現性が得られた。遺伝子配列に対応して標準化する方法を構築中である。 2)破骨細胞分化マーカーと DNA/RNA センサー遺伝子群の発現解析 マウス骨髄細胞培養系でRANKL刺激24時間前とRANKL刺激24時間後に遺伝子導入した。経時的に破骨細胞分化マーカー、融合関連タンパク質群や転写因子群の発現をreal time-qPCR法で解析した。 ウイルスベクターの感染効率は免疫染色法にて判定した。ウイルス感染のタイミングに応じた多核細胞形成抑制に伴って、TRAP、カテプシンK、DC-STAMPの発現量は低下したが、NFATc1の発現量は変化しなかった。この時、NFATc1タンパク質量も変動しなかった。ウイルス感染では、ウイルスゲノムあるいはウイルス構成タンパク質がパターン認識受容体の標的となり、炎症性サイトカインの発現が促進することが知られている。サイトカインの1つinterferon betaは破骨細胞形成に抑制的であることが報告されていため、炎症生サイトカインの発現の変動を追求した。RANKL刺激24時間後に遺伝子導入した場合、interferon betaはウイルス感染に応答して促進したが、破骨細胞形成は認められた。
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今後の研究の推進方策 |
1)アデノウイルスベクターの導入効率を標準化するために、ベクター由来va1遺伝子の発現レベルにて標準化する。ベクター間での基本骨格が異なるため、遺伝子配列に対応して標準化する方法を構築中である。 2)ウイルスベクター感染による破骨細胞形成の抑制は感染細胞内での転写あるいは翻訳に依存すると考えられる。アデノウイルスベクターによる遺伝子導入に対する細胞応答を転写に依存する反応と翻訳に依存する反応に区別して観察するために、Tet-ONシステムを利用した破骨細胞株を樹立する。RAW264細胞株で、細胞融合阻害をしない発現量のrtTAを安定発現する株を得た後に、pAd/PL-DEST Gateway vector kitにて作成したTRE-CMV-cDNAレポーターウイルスを感染させる。レポーターウイルスには、翻訳可能な cDNA あるいはkozak-ATGを除き内部ATGコドンを変異させた非翻訳cDNAを挿入した2つのリコンビナントゲノム用いる。この2つのレポーターウイルスを別個にtTA安定発現株に遺伝子導入した後、添加Dox量を変化させることにより転写量を制御する。破骨細胞分化への影響を測定することで、転写に依存する反応と翻訳に依存する反応を区別して解析する。 3)破骨細胞分化における細胞内RNAセンサー分子群の役割を追求する。細胞分化に伴うRIG-I、MDA5の発現量の変化、並びにアデノウイルスベクター感染前に、RIG-I、MDA5に対するsiRNAを導入して各分子を特異的に阻害したのちに、RANKLによって破骨細胞分化を誘導して、それぞれの機能を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会参加のため旅費を計上したが、学会の殆どがオンラインでの開催となったため。 差額分は、ベクター構築と遺伝子発現量の解析に必要な消耗品の購入に充てる予定である。
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