頭頚部癌患者に対する放射線治療に併発する放射線性唾液腺萎縮症は患者のQOLを著しく低下させるが、治療法は確立していない。またその典型的な病理像である線維化組織にみられる過剰な細胞外マトリックス(ECM)を産生する線維芽細胞の由来や、その活性化機序についての詳細は解明されていない。一方、唾液腺に常在するCD34陽性細胞(Tissue Resident CD34 positive cells; TR34)が放射線障害を受けた唾液腺組織において、血管障害による組織環境の刺激により、血管障害部に遊走・集積し、一部が周皮細胞(血管平滑筋/ペリサイト)に分化することで、障害早期には血管修復に寄与することが、研究代表者により示唆された。一方で、周皮細胞に分化せずに安定に存在していたTR34が、筋線維芽細胞への分化を開始し、過剰なECM産生を行い組織の線維化を促す現象の一端を見出した。本研究では、早期には血管修復に寄与するTR34が、組織環境の変化により過剰ECM産生を行う筋線維芽細胞へ分化・誘導する分子機序を解明することにより、線維化抑制に働く新規分子標的薬開発の可能性を検討することを目的としている。 これまでに、放射線性萎縮顎下腺において、早期における炎症性関連マーカーの遺伝子発現上昇かつ炎症の遷延化を確認した。炎症が遷延化することから放射線照射による直接的な細胞死以外の機序による要因が示唆されたため、最終年度では、マウス顎下腺組織より唾液腺細胞を単離・培養し、動物実験における放射線障害後の障害組織におけるタンパクの網羅的な解析と併せて、培養細胞でも炎症の遷延化の機序の検討を行った。これより、障害唾液腺細胞に起因するDAMPsが炎症の遷延化の一因であることを明らかにした。現在DAMPs処理を行うマクロファージやその組織常在細胞(TR34等)との関わりを組織再生の観点から解析している。
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