研究実績の概要 |
胎児の亜鉛蓄積は妊娠後期に行われるため、早産児は十分な亜鉛の備蓄がない状態で出生する。出生後の母乳栄養、長期静脈栄養管理、出生後の急激な体重増加は早産児の亜鉛欠乏と関連する可能性があるが、わが国で使用される母乳強化剤には亜鉛が添加されていない。本研究では母乳中の亜鉛濃度と児の亜鉛欠乏の関係について評価を行うとともに、亜鉛欠乏が児のアウトカムに及ぼす影響を評価することを目的としている。 2020年11月から2012年末までに48例の早産・低出生体重児をリクルートし、母乳284検体について経時的な亜鉛濃度の測定を行った。分娩後の母乳中亜鉛濃度は生後0週(産後1~7日)で557±195μg/dL、生後1週で510±166μg/dL、生後2週で382±112μg/dL、生後3週で319±97μg/dL、生後4週で282±128μg/dLμg/dLであった。出生時在胎週数と児の生後1週間以内の血清亜鉛濃度の間には弱い負の相関(r=-0.339, p=0.028)が認められたが、在胎週数と生後1~2週間以内の母乳中亜鉛濃度の間には有意な相関は認められなかった。大半の早産児に対して亜鉛製剤の補充が行われていたため、生後0~4週にかけて母乳中亜鉛と児の血清亜鉛の間に相関は認められなかった。一方で、NICU入院中の最大亜鉛製剤投与量が3mg/kg/日以上であった児(n=13)と最大投与量が3mg/kg/日未満であった児(n=35)の比較では、前者において生後2週(433±141 vs 538±168, p=0.001)および生後4週(189±57 vs 320±130, p<0.001)時点での母乳中亜鉛濃度が有意に低値であった。以上より亜鉛濃度の低い母乳は早産児の亜鉛欠乏症に関連している可能性が示された。
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