本研究は,ユーザーの脳機能が十全に保たれていない状態においても安全に使用できるヒューマンインタフェースを評価する方法論を検討するために,立ちくらみ様の一過性の脳血流低下時の脳機能の変化に注目し,高い再現性で脳血流の低下させることが可能な,正弦波下半身陰圧負荷(SLBP)を用い,SLBP時の脳機能の変化を明らかにすることを目的とした。 最終年度となる2023年度は,SLBP時の高次脳機能の反応を見るために,刺激反応適合性タスクに対する脳波事象関連電位(ERP)を測定した。このタスクのための視覚刺激呈示にはマイコンで制御されたドットマトリクスLEDを用い,上向き,もしくは下向きの矢印を,上中下段のいずれかの位置にごく短時間(10msec)呈示した。被験者には刺激が呈示された位置を無視して矢印の向きをボタン押下ですばやく回答するよう指示した。ERPは呈示刺激の矢印の向きが位置と一致する適合条件,および一致しない不適合条件に分けて解析した。SLBP時にERPの他,血流動態指標も同時に測定した結果,中大脳脈血流速はこれまでの研究結果と同様に,SLBPの負荷の変動と同期して脳血流も変動することが示された。一方,SLBP時に測定されたERPは,適合条件と不適合条件でのERPに明確な違いが見られたものの,SLBPの負荷の変動によるERPへの影響は見られなかった。 初年度に検討したSLBP時の聴性脳幹反応(ABR)では,ABRの第V波の潜時がSLBPの負荷の変動の影響を受けることが明らかとなっており,情報の入り口にあたる脳幹部の反応でSLBPによる影響が見られたものの,情報を統合して処理するプロセスを反映するERPにSLBPによる影響が見られなかったことから,脳血流の変動に対する高次脳機能の堅牢性が示された。今後この堅牢性を担保するための補償作用の実態を明らかにする必要性が示された。
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