研究実績の概要 |
【本研究の目的】高解像マウスコネクトームから脳情報処理様式を導出する。【方法】コネクトームのリバースエンジニアリング:コネクトームの構造に潜在的に表現された脳情報処理の機能構成を、ネットワーク分析を用いて推定する。機能構造がマクロレベルである程度知られている視覚野に注目する。ネットワーク分析によるミクロレベルからのアプローチに基づき、マウス視覚野の機能構成を明らかにする。新たなネットワーク分析方法の開発にも取り組み、その成果をコネクトーム・リバースエンジニアリングに取り入れる。 【令和5年度(最終年度)の研究成果】「マルコフ連鎖モジュール分解(Modular decomposition of Markov chain, MDMC)」は、ネットワークからコミュニティを抽出するために研究代表者が考案した方法であり、コネクトーム・リバースエンジニアリングの核である。MDMCが最適コミュニティ数を自動決定することを示した。MDMCでは任意のネットワークに対して、分配関数を解析的に計算できる。統計力学とのアナロジーに基づき、カノニカル集団を仮定することにより、分配関数からエネルギー関数を求めることができる。エネルギー関数の形からコミュニティ構造の安定性を判定できる。物理学の基本テーゼ「存在とは安定である」に則り、ネットワークに実際に存在するコミュニティの数が定められる。【研究期間全体の研究成果】MDMCにより、高解像マウス視覚野コネクトームにおいて、腹側経路と背側経路をコミュニティとして同定した。さらに、高解像マウス視覚野コネクトームから遍在的コミュニティの階層構造を抽出し、新たに視覚野ゲートおよび腹側・背側間ブリッジと目されるコミュニティを同定した。MDMCが同定したこれらのコミュニティ構造は安定であり、マウス視覚野は各コミュニティに対応する機能を実際に有すると結論される。
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