多孔質電極中に電気化学的に吸着するイオンの熱力学的振る舞いは、多孔質電極の細孔径がイオンの大きさと同程度に小さい場合には、バルク電解質中におけるそれとは異なり、イオン種・電極の細孔径・印加電圧等の条件に強く依存する。 我々は、この性質が多成分電解質からの異種イオンの分離に利用できる可能性について検討した。本研究 の成果は、海水、鉱山水、工業排水などのさまざまな「水」や電子廃棄物の溶出液から特定のイオン種を選択的に回収することにより有害元素の除去や有価元素の再利用を行うための、新しい技術の創成につながる可能性がある。 我々は多孔質電極への吸着のしやすさのイオン種による違いについて調べるために、分子シミュレーションを用いた理論計算によって、イオンがバルクの水溶液から多孔質電極の細孔の中に吸着するまでの経路に沿って、イオンが多孔質電極に吸着するために越えなければならないポテンシャル障壁の高さを、一価から三価までのさまざまなイオン種について求めた。その結果、イオンの多孔質電極への吸着のしやすさが、イオン種・電極の細孔径・印加電圧等の条件に強く依存することが確認された。特に、イオンの価数の違いによる吸着のしやすさの違いが大きいことが分かった。また我々は、いくつかの一価および二価のイオン種については、電気化学実験による吸着のしやすさの検証を行った。本研究で用いた条件では、イオン種による相対的な吸着のしやすさについて差異は認められたものの、実用性があるほどには大きな差異を認めることはできなかった。今後、多孔質電極の細孔径の大きさが本実験で用いたものと異なる多孔質電極を用いるなど、異なる条件における検証を行う予定である。
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