研究課題/領域番号 |
20K12419
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
片瀬 葉香 九州産業大学, 地域共創学部, 准教授 (40513263)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人新世 / ツーリズム / ソフトツーリズム / 地球温暖化 / 脱炭素社会 / 北欧 / ヨーロッパアルプス |
研究実績の概要 |
2000年にクルッツェン他が産業革命以後の人間活動によって地球上に「人間の痕跡」が刻まれたことを根拠に、完新世に続く地質時代として人新世という概念を提唱してから20数年経過した今日、人新世に関連した研究は自然科学から社会・人文科学まで大きく拡大した。特に、世界経済が大きく加速した20世紀半ば以降、人間は「ジオ・フォース」として地球システムに負荷を与え、人間の生命を脅かすようになった。グローバル化したツーリズムもその一端を担う活動として認識されるようになり、人新世を背景としたツーリズム研究も見られるようになった。本研究は、まず人新世時代の3つのステージを概観し、それを背景にしてツーリズムがいかに発展し、地球システムに負荷を与えてきたのかを明らかにする。人新世第2ステージの地球システムへの負荷を拡大させた「大加速の時代」、このままの状態が続けば地球上の生命が危機的な状況に陥るという「地球の限界」を認識し、第3ステージの「地球システムの管理者の時代」における地球環境への負荷を低減するためのツーリズム、特に脱炭素化ツーリズムとソフトモバイルなどについて北欧とアルプス地域における先進的な取り組みから学び、新たな発想に基づいて考察する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は、人新世とツーリズムに関する論文・書籍を収集し解読に基づいて、人新世とツーリズムの論点を明らかにした。従来、日本における観光研究では、ツーリズムは、主に観光資源の開発やツーリストの動態を通じて、いかに地域経済の発展に貢献するかという視点から捉えられてきたが、Gossling(2002)は人新世第2ステージの「大加速時代」に、ツーリズムによるエネルギー消費、観光地・保養地開発に伴う自然破壊、ツーリズムの過度の集中による生物多様性の損失や種の絶滅への関与、グローバルヘルス(疫病)とツーリズムの関係性、水の浪費などツーリズムがいかに地球システムに影響を及ぼしたか、またScott et al.(2012)はツーリズムが近年の気候変動の影響を受けていることなど、新たな視点からツーリズムを捉えていることを明らかにすることができた。さらに、Gren and Huijbens(2014, 2016)は、初めて人新世のツーリズムという視点を導入し、人新世におけるツーリズムとは何か、人新世第3ステージの「地球システムの管理者の時代」にふさわしいツーリズムについて考察し、地球温暖化に加担する化石燃料の消費を抑えた「脱炭素化ツーリズム」を提唱していることを明らかにした。「脱炭素化ツーリズム」に関しては、すでにアルプス地域で導入されている、ソフトツーリズム、ソフトモバイルの実践例を資料などから明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的の一つは、人新世第3ステージにふさわしい「脱炭素化ツーリズム」に関して、北欧諸国とアルプス地域において現地調査を実施することであった。しかし、COVID-19の影響により海外調査が困難となり、令和2年度は主に文献による研究を進めた。令和3年度も引き続きこの影響下にあると考えられるため、文献による研究を行うが、夏期の休暇旅行シーズンが終了した時点で、北欧・アルプスの関係機関にメールなどによって、当該地域におけるツーリズムの実態、「脱炭素化ツーリズム」についてアンケート調査を試みたい。 一方、すでに欧米の研究者によってCOVID-19とツーリズムに関する論文が多数発表されている。そこで、本研究においてCOVID-19収束後を人新世第3ステージと捉え、今後の研究に加えることにする。できる限り関係資料を収集し、人新世第2ステージのツーリズムに戻る「Business as usual」ではない、第3ステージにおけるもう一つのツーリズムについて考察したい。また。その研究を日本のCOVID-19後のツーリズムに適応させることができるかどうか検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張(国内外)について、COVID-19の影響により中止となったが、収束状況に応じて次年度以降に実施する予定である。
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