研究課題/領域番号 |
20K12419
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
片瀬 葉香 九州産業大学, 地域共創学部, 准教授 (40513263)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人新世 / ツーリズム / 地球システム / 地球温暖化 / 脱炭素社会 / ソフトツーリズム / 北欧 / ヨーロッパアルプス |
研究実績の概要 |
新型コロナ感染症の影響で、計画していた北欧およびヨーロッパアルプスの現地調査ができなかったので、「人新世とツーリズム」に関する文献によって研究を進めた。その成果は以下の通りである。 ①横山秀司・片瀬葉香(2021)COVID-19パンデミック後のツーリズムと人新世。第36回日本観光研究学会全国大会学術論文集、pp.285-288:本論文は、2020年のCOVID-19パンデミックを人新世第3ステージへの転換と捉え、パンデミック後のツーリズムのあり方を、約40編の論文を参考にまとめたものであり、ソフトツーリズムやスローツーリズムなど、地球システムへの負荷を抑えたツーリズムが相応しいという結論を得た。 ②横山秀司(2022)人新世時代のヨーロッパアルプスとツーリズム。日本山岳文化学会論集、第19号、pp.49-57.(査読あり):本論文はヨーロッパアルプスに焦点を当て、アルプスのツーリズム開発の歴史と人新世時代との関係を検証した。特に、人新世第2ステージの「大加速の時代」にはスキー場の大規模化と人工降雪機の導入によって、アルプスの景観と環境の悪化をもたらした。第3ステージのアルプスでは環境に負荷を与えることが少ないソフトツーリズムの推進年が求められることを論じた。 ③横山秀司(2022):ソフトツーリズムの再考。日本観光研究学会論集、33号に投稿中:1980年代にヨーロッパを中心に広まったソフトツーリズムは1990年代の持続可能なツーリズムの展開によって退化したように見えたが、2000年以降。ソフトツーリズムを指向したツーリズムを実践する地域があらわれ、ソフトツーリズムの商品販売するプロバイダーもあらわれるようになり、ソフトツーリズムの発展が期待されるようになった事を論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度は、人新世とツーリズムに関する論文・書籍を収集し解読に基づいて、まず、人新世のツーリズムという視点を初めて導入したグレンとハウベンス(前掲)の論考を軸として、ツーリズムを人新世の観点から研究する方法を、(1)ジオ・フォースとしてのツーリズムの概念化;(2)人新世におけるツーリズムの持続可能性;(3)人新世の地球へのツーリズムの適応という観点から考察した。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック後のツーリズムに関する欧米の研究者による議論の動向を踏まえ、「元の状態(business as usual)への回復」を超えた視点から、ツーリズムの持続可能性や脱炭素に向けた将来のあり方を改革しようとする、第3ステージにおけるもう一つのツーリズムについて考察した。その結果、非炭素ツーリズム、ステイホームツーリズム、目的地管理の観点から、気候温暖化などの地球環境の問題に対してツーリズムはどうあるべきかについて考察する可能性が見出された。この研究成果を踏まえて、次年度の研究では、人の移動の歴史に「ジオ・フォース」としての「ツーリズム」はどう関わるのかという観点から、時代認識としての「人新世」の重要性を再認識する作業を通じて、第3ステージの「地球システムの管理者の時代」にふさわしいツーリズムについて検討したい。特に、ツーリズムが地球システムに対して負の影響を与える事象(温室効果ガスの排出、土地利用の変化、エネルギーや水資源など)に着目して、ツーリズムは、地球システムをいかに改変してきたのか、今後どのように関与すればいいのかについて再検討する。そして、ソフトツーリズムといった地球システムへの負荷を抑えたツーリズムに関する研究成果に基づいて、南北格差・貧困問題に対処したツーリズム、地球倫理にかなったツーリズム等について考察を深めたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的の一つは、人新世第3ステージにふさわしい「脱炭素化ツーリズム」に関して、北欧諸国とアルプス地域において現地調査を実施することであった。しかし、COVID-19の影響により海外調査が困難となり、令和3年度は主に文献による研究を進めた。令和4年度も引き続きこの影響下にあると考えられるため、まずは、文献による研究を行う。特に、第3ステージにおけるもう一つのツーリズムに関する資料を引き続き収集し、その研究を、日本のCOVID-19後のツーリズムに適応させることができるかどうか検討したい。また、夏期の休暇旅行シーズンが終了した時点で、北欧・アルプスの関係機関にメールなどによって、当該地域におけるツーリズムの実態、「脱炭素化ツーリズム」についてアンケート調査を試みたい。同時に、国内における関連地域での現地調査や関連機関へのヒアリング調査も実施したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の影響が長期化する中で、国内・海外調査が困難となり、令和3年度は主に文献による研究を進めた。令和4年度も引き続きこの影響下にあると考えられるため、まずは、文献による研究を行うとともに、収束状況を見ながら、関係機関にメールなどによって、当該地域に関するアンケート調査、及び可能な限り現地調査を試みたい。
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