研究課題/領域番号 |
20K12509
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
竹内 有子 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (80613984)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | デザイン史 / 美術史 / 比較芸術学 / 日英芸術交流 |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀英国のデザイン改良運動におけるオリエンタリズムが、近代デザインに及ぼした影響を、その形成過程から教育・製造・消費の現場への展開を通じて総合的に解明するものである。本テーマとなる「デザイン改良運動」とは、1830-80年代における官・民のデザイン改革運動を指す。その嚆矢は、1837年に政府が創設した「官立デザイン学校」(現:王立美術大学)とその付設博物館(現:ヴィクトリア&アルバート美術館)であった。またここでの「オリエンタリズム」は、(広義の)オリエント固有の形式・モティーフ・地域的手工芸・技術・生活文化の影響を受けたデザイン、つまり近代オリエント学に派生した芸術潮流について意味している。 今年度は、「オリエンタリズムの形成過程と影響元に関する調査」を行い、官立デザイン学校側(コール・サークル)の主要な理論家・建築家・デザイナー、オーウェン・ジョーンズ(Owen Jones, 1809-74)のデザイン活動に焦点を絞った。同運動が東方のデザインを模範とするようになった背景には、彼の働きが大きいからである。 先行研究では、彼が実見した古代エジプト建築を中心に、アジアまでをも含む東方芸術の評価の関係性およびその全体像は詳らかにされていない。そこで本調査は、ジョーンズのグランド・ツアーに着目した。結果、エジプト・アルハンブラ宮殿における実地調査が、彼の色彩論研究と建築・製品への装飾適用法に関して、大きな示唆を与えたことがわかった。ならびに、シデナムの新しい「クリスタル・パレス」(1854年)において彼が担当したエジプト・ギリシア・ローマ・アルハンブラの展示が、『装飾の文法』(1856年/東方の装飾を意義付けた書)の理論を視覚的に補完する、重要な場であったことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
計画当初は、英国での現地調査(V&A美術館および国立芸術図書館の所蔵品・蔵書)により、コール・サークルのデザイン原理と教授法、東洋展示収集品(インド・トルコ・エジプト・中近東等、東洋の芸術資料)の諸関係を検討する予定であった。それが、コロナ流行により渡航ができなくなったため、急遽、計画を変更する必要性に迫られた。現地での一次資料収集の機会が失われたため、東洋芸術の参照元(図書と工芸)の特定・リスト化ができなくなった。そこで代替え措置として、コール・サークルの主要人物、オーウェン・ジョーンズの諸活動に範囲を限定して、対象を縮小した調査を行うこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ流行が収束せずに渡航ができない期間が延びることを想定し、翌年度に予定していた「オリエンタリズム/シノワズリ/ジャポニスムの諸関係と意義に係る調査」を一部前倒して行った。また今後も、最終年度での調査を予定していた「造形におけるオリエンタリズムの影響」についても、入手ができた資料に即して、同時進行で進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、海外調査旅費を使途の大部分に予定していたが、渡航ができなくなったため、未使用額が生じた。また日本国内でも出張中止命令や、学会がオンライン実施となったため、旅費が発生しないこととなった。物品購入については、海外宛に発注した書籍が届かないケースが多発した。その結果、オンラインで資料を入手できる場合はそのように行い、支出の効率化を図った。 次年度はコロナ流行の動向、海外調査・国内調査旅費と物品購入のバランスをよく見極め、執行計画を再度熟考し、練り直すこととする。
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