研究実績の概要 |
今年度は、オーウェン・ジョーンズ(Owen Jones, 1809-74)に多くを学んだクリストファー・ドレッサー(Christopher Dresser, 1834-1904)におけるジャポニスムを、図案集と陶磁器の「色彩」の点から検討した。現地調査を行い、明治期にサウス・ケンジントン博物館から内務省の博物館に寄贈された多色石版印刷による所蔵品図録(国立芸術図書館蔵)の原本を明らかにした。加えて、ドーマン美術館の陶磁器コレクションを実見し、日本の陶磁を研究したドレッサーが何を(技術・デザイン・形態・色彩)取り入れようとしたかについて検討した。 1876年来日したドレッサーは帰国後、1879-82年頃までイングランド北東部に創設されたリンソープ製陶所の芸術監督を務め、新しいタイプの陶磁製品をデザインした。それは、東洋の陶磁―とりわけ日本の茶陶-に触発され、歪みのある造形、偶発的な美を表現する流釉を用いたところに特色がある。掛け流した色釉が生み出す効果的な配色と鮮やかな発色は、それまでに類を見ないものであった。それゆえ、17-18世紀に西欧諸国が受容した装飾と色彩(染付・色絵)による日本の華やかな磁器とは異なっていた。 リンソープの陶器の色彩は、ドレッサーが推薦して同社に雇用されたデザイナーのヘンリー・トゥースによって発展された。彼は、マネージャーとして現場の技術管理を行い、日本の釉薬技法をいち早く導入した。新技術・抑えた色味・掛け流した釉薬の表現により「変化する色彩」がリンソープ製陶所で目指された。ドレッサーは自著(Principles of Decorative Design,1873年)において、自分の所有する茶陶に新しい価値を承認している。彼は、当時の西洋人が評価しない茶陶の美を芸術品として認めており、したがってリンソープの陶器は日本特有の美学を受容したものであった。
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