これまでヒト脳内神経活動パターンから神経伝達物質とヒトの気質・性格や行動との関連が示唆されてきたが、生体内分子そのものを観察・定量し、個人の気質・性格や行動との関連性を研究した例は比較的少ない。今回の研究では、自閉スペクトラム症(ASD)や社会性に関連があると言われているオキシトシンの受容体に結合するPETプローブおよび、オキシトシンを一部制御している女性ホルモン系に関わるPETプローブの開発を目指し、それぞれの定量化と個人の気質・性格、行動との関連性を明らかにすることを目的とした。 オキシトシンについては世界中で複数のグループがその受容体に特異的に結合するPETプローブの開発に挑戦しているが、いまだ有用なPETプローブの開発はなされていない。今回の研究で、我々のグループも候補化合物を複数合成し、その生体内移行性や結合特異性など検討した。in vitro実験で特にポテンシャルが高いと認められた化合物においては標識化を行いアカゲザルでPET実験を行った。しかし霊長類生体脳内で特異的結合能力が高い化合物を見出すにはいたらなかった。 オキシトシンは一部女性ホルモンから調節を受けていることが明らかになっているが、我々は女性ホルモン産生酵素であるaromataseを可視化・定量するPETプローブを開発し、これまでに脳内aromataseレベルとヒトの気質・性格との関連性を明らかにしてきた。今回の研究ではオキシトシン受容体に結合するPETプローブの開発と並行して、より精度が高く、また汎用性の高いaromataseに結合するPETプローブの開発を進めてきた。その結果、半減期の比較的長い(110分)18Fで標識したPETプローブの開発に成功し、このことは今後多くのPET施設において様々な疾患におけるaromataseのイメージングを可能にする。
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