研究課題/領域番号 |
20K12795
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
樋口 雄哉 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (40823034)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エマニュエル・レヴィナス / ジャン・ヴァール / フランス哲学 / 現代哲学 |
研究実績の概要 |
当初の研究実施計画では、今年度はヴァール最初期のテキストを用いながら「多元性」に関するヴァールの議論の分析を行なった上で、それをレヴィナスの思想を突き合わせる予定であった。ところが、COVID-19の世界的流行の影響から予定していたフランスでの資料収集を延期する必要が生じ、それにより計画全体を見直す必要が生じた。そこで2020年度は、手元の資料をもとに、最終年度に扱う予定であった「超越」概念をめぐる問題に先に取り組んだ。具体的には、第一に、ヴァールの「下降的超越」概念に照らして「イリア」に関するレヴィナスの議論を読み直す作業を進め、研究代表者の以前の研究の不足を補った。第二に、レヴィナス『全体性と無限』の超越概念におけるヴァールの痕跡を追尾した。後者の作業の成果は、2020年9月の日本レヴィナス協会におけるシンポジウムにおいて、ヴァールの「形而上学的経験」と『全体性と無限』におけるレヴィナスの特殊な経験概念との比較研究という形で発表した。同発表の内容は、同じ問題に関するその後の研究の成果も加えて、近く研究論文として改めて発表する予定である。 2020年度に行ったこれらの研究を通じて、超越をめぐるヴァールの議論の要点は概ね明らかにできた。またそれと同時に、超越の問題がヴァール哲学全体のなかでもつ意義についても、ある程度の見通しを得ることができた。これらの成果は、今後、ヴァール哲学全体の構造を解明する作業を行う上で、一つの重要な手がかりとなりうる。ただし、超越概念をめぐるヴァールとレヴィナスの比較研究は、ヴァールの初期のテキストの読解を重要な基礎の一つとするべきであることに変わりはない。したがって、本年度の成果は、次年度以降に後回しにした初期ヴァールの研究が進展したのち、再度検討を加える必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19の世界的流行の影響から、予定していたフランスでの資料収集が不可能となり、初年度に予定していた研究の実行を延期する必要があった。ただし、それに代わって、比較的資料の揃っている第三年度の研究を進め、一定の成果を得ることができたため、研究の遅れは大幅なものではないと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度:1)2020年度に国内で収集した資料や以前に入手済みの資料を中心に、第二次世界大戦前のヴァールのの哲学の一般的方法と具体的戦略とを整理し、そのうえで、「多元性」をめぐる問題圏がヴァール哲学において占める位置を明らかにする。そして、50年代のレヴィナスの「複数者による存在」のアイデアを、ヴァールの「多元性」の哲学と比較する。2)フランス国カーン市のIMECに滞在し、ヴァールの草稿の調査を行う。また、同国パリ市の国立図書館にて、ヴァー ルの講演や討議に関する資料を収集する。さらに、North American Levinas Society(NALS) 主催の研究大会に参加し、北米地域における最新のレヴィナス研究について資料収集を行う。なお、2)に関して、当該年度中も海外への渡航が不可能である場合は、次年度に延期する。 2022年度:1)『デカルト哲学における瞬間の観念の役割』(1920)や『キルケゴール研究』 (1938)を分析し、「諸瞬間の連続」としての時間理解を軸にヴァール時間論を再構成する。 次に、レヴィナスの『実存から実存者へ』や40-50年代の講演における時間理解と瞬間概念 をヴァールに照らしながら再検証し、ヴァール由来の瞬間概念がレヴィナス「存在論」構想 のなかに残している痕跡を明らかにする。さらに、これまでの成果を踏まえつつ、ヴァールとレヴィナス両者の思想の根本的分岐点がどこにあるのかを明らかにする。2)また、フランス国カーン市のIMECに滞在し、ヴァールの草稿の調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り、当該年度はCOVID-19の世界的流行により予定していたフランスでの資料収集が不可能となった。それに伴い、予定よりも多くの図書を海外から取り寄せて資料収集に努めたが、結果としてこのような次年度使用額が生じた。次年度は、次年度使用額を用いて、海外調査の日数を予定よりも増やして当該年度の分を補う計画である。また、次年度使用額の一部は、図書の購入費にも充てる計画である。
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