研究課題/領域番号 |
20K12795
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
樋口 雄哉 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (40823034)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジャン・ヴァール / エマニュエル・レヴィナス |
研究実績の概要 |
当年度は、ヴァールの瞬間概念の内実を明らかにしたうえで、レヴィナスの瞬間概念との比較研究を行った。 「超越」概念に関してヴァールとレヴィナスの比較を行った前年度の研究では、ヴァール哲学が有している〈超越の哲学〉の側面に着目していた。だが他方でヴァールは、「超越」の「超越」、すなわち「超越」の運動の成就としての「内在化」を希求してもいる。ヴァールにおいて「瞬間」とは、この「超越」の「内在」への反転を指す概念である。ヴァールは『プラトン「パルメニデス」研究』(1926)、『キルケゴール研究』(1938)で、こうした意味における「瞬間」に注目したあと、『人間の実存と超越』(1944)において、その「瞬間」を、思惟の手前ないし彼方の実在として、また同時に、思惟の経験とは異なる感情の経験として位置付けるに至る。当年度に行った、瞬間をめぐるヴァールの思索のこうした展開の研究からは、この主題がヴァールの〈内在の哲学〉において重要な役割を演じていることがわかった。またそれと同時に、ヴァールの哲学が、「超越」の「内在化」としての「瞬間」の経験を想定しつつも、パフォーマティヴなレヴェルにおいては「超越」の立場に留まり続けていることも明らかになった。 20世紀前半のフランス哲学における時間理解を、ベルクソン哲学に代表される「連続の哲学」と「非連続の哲学」に大別した場合、レヴィナス哲学は後者に属すると言える。他方ヴァールも、「瞬間」を強調する点で、一見すると後者に属するように見える。だが、当年度に行った研究からは、彼の意図がむしろ、二つの立場の対立を乗り越えることにあったことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に修正した研究計画に従い、当年度は当初、50年代レヴィナスのなかにヴァールの「多元性」哲学の影響を探ることを予定していた。しかし、研究を進めていくなかで、当該テーマは海外での資料収集を済ませた上で進めるのが妥当だと思われたので、再度計画を修正し、最終年度に予定していた「瞬間」概念をめぐるヴァールとレヴィナスの比較研究を行うことにした。当年度の研究からは、この主題に関して予定していた課題には全て取り組むことができ、有益な成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
「多元性」に関するヴァールの考えを明らかにした上で、50年代のレヴィナスのなかにヴァールとの対話の痕跡を探る。また、状況が許すようであれば、海外での資料収集を進め、それを用いて第一年度と第二年度の成果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、国内外での出張旅費の支出がなかった。海外出張で収集する予定だった資料の一部を海外から取り寄せるなどして対処したが、次年度使用額が生じた。次年度は、当年度の出張で予定していた用務を次年度の出張時に合わせて行い、次年度使用額をその旅費の一部に充てることを計画している。
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