研究課題/領域番号 |
20K13022
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
鋤田 智彦 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (60816031)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 清書対音協字 / 漢字音 / 満漢資料 / 言語接触 / 近世語音 |
研究実績の概要 |
当該年度は『清書対音協字』(研究計画調書において『清書対音・切音』と記した資料)に見られる満洲文字により表された漢字音についての分析、検討を行った。当該資料は17世紀後半の漢字音を収めたものとして、その収録字数も3000字を超え比較的多く、字音表という性質からも満洲文字による漢字音表記の一つの基準として考えるにふさわしいものである。当該資料について、これまでの先行研究では個別にその内容について述べられることはあったが、全体的に個別の字について通時的な観点からそこに見られる表記について言及されることはほとんどなされてこなかった。本研究において、『広韻』などにおける中古音との歴史的な対比、あるいは同時代の北京音を表す『合併字学集韻』や、南京音を表す『西儒耳目資』などの資料、あるいは時代のやや前後する、同じ北方語音を収めた『中原音韻』『四声通解』など、さらには満洲資料『満文三国志』『御製増訂清文鑑』『音韻逢源』などに見られる表記との対比を通し、収録された個別の字、特に例外的であると考えられる字について詳細な分析を行った。そこからは当該資料は単一の音系に基づくものではいことが明らかとなった。例えば照組二等字と照組三等字は一方ではそれを区別しない北京音と共通する音を収めており、また一方でははっきりと区別する南京音と共通する音を収めている。さらに一部の入声字などにおいては編著者の出身地である浙江方言の影響を受けたと考えられる表記が見られるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
『清書対音協字』は日本国内にいくつか残存しており、それらについて対照、確認をすることも検討していた。しかしながら当該年度においてはコロナ禍のため、移動に制限がかかったり、あるいは所蔵機関が閉館となったため当該年度中に実際に目にすることができたのは東洋文庫所蔵本についてのみであった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は『清書対音協字』に収録された漢字の満洲字表記について、一つの定型としてまとめることができた。この際明らかになった個別の字についての歴史的、通時的な状況については、次年度以降に取りかかる資料においても関連するものである。また、『清書対音協字』に現れた漢字についていえば、当初の予定通り中古音の音韻地位を加えた文字データベースの基礎作業でもあった。次年度以降はデータベース構築を進め、また、同時に新たな満文資料について本年度と同じような分析、検討を進め、そこに見られるさらに異なった北方語音の一面を明らかにする。なお、コロナ禍が続くことを考慮に入れ、資料についてもインターネット上などで公開されている影印資料等を有効に活用することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費についてはコロナ禍の影響により本来複数回計画していた出張が1回のみとなり、予定していた金額より少ないものとなった。 謝金についても初年度ということもあり、謝金が必要な作業に取りかかるのが遅く、想定よりも少ない金額となった。 今後は資料の適切な入手、謝金を必要とする作業、また、資料蔵書機関などに資料の複写を依頼することも多くなると考えられる。
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