研究課題/領域番号 |
20K13046
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
大江 元貴 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (30733620)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 現代日本語文法 / 独立語文 / 述語文 / 談話 / 左方転位 / 多重文法 / 定型表現 |
研究実績の概要 |
述語文の研究が記述的には一定の到達点に達したと言われている現代日本語文法研究において独立語文の研究を拡充することは重要であるが、従来の独立語文研究は一語文の分析に集中していたためにその特殊性が際立ち、文法研究の中で孤立していた。本研究は、独立語文と述語文の連続性を示す現象を発掘し、その連続性の実態を文法・談話・韻律の各側面から記述的に明らかにすることで、典型的独立語文から典型的述語文にわたる多様な「文」を扱える枠組みを探求する。 2020年度は、(1)(2)の構文の分析を進めた。(1) 「私の夢、それは科学者になってノーベル賞をとることです」のような日本語のいわゆる左方転位構文。(2)「今日紹介する商品はこちら、最新薄型テレビ」のような商品紹介番組やビブリオバトル等で多用される定型表現。(1)(2)はいずれもその内部に独立語文(一語文)的要素(「私の夢」「最新薄型テレビ」)を含みつつ全体で一つのまとまった構文を形成している。コーパスの横断的調査と作例分析を通して、両構文はいずれも文を産出することが専権的に認められた話し手とそれを受け止めることだけを期待される聞き手という不均衡な関係性を前提とした談話でのみ使用され、かつこれらの構文は特定の談話行動と直接的に結びついていることが明らかになった。独立語文の特徴として、発話現場のイマ・ココの状況に依存してその意味が解釈される現場性が指摘されてきたことを踏まえると、構文全体としては述語文である(1)(2)の談話依存的な性格はその内部に独立語文的要素を含むことから生じていることが示唆される。本分析を通して、両構文を文構造と談話の両面において独立語文と述語文の特徴を兼ね備えたハイブリッド構文と位置づける方向性が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
具体的な2つの構文の特徴を記述的に明らかにできたことに加え、本研究課題が扱う現象の理論的位置づけについて、① Iwasaki (2015)の多重文法モデル(具体的な言語使用環境ごとに異なる文法の存在を想定する文法モデル)との関係、②日本語学における既存の「文」論との関係、の2つの観点から踏み込んで検討することができた。①の内容は論文(『社会言語科学』23巻1号掲載)にまとめ、②の一部は学会(日本語音声コミュニケーション学会2020年度秋季大会)で報告した。当初の予定では、これらの理論的検討は最終年度(2023年度)に行う予定であったが、部分的ながら初年度にその内容をまとめ有益なフィードバックを得ることができた。以上より、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、独立語文と述語文の連続性を示す具体的な言語現象の分析を進める。次年度は、形式的には述語を持ちながらも独立語文としての性格が強い「痛い痛い!」「来た来た。」のような反復文について文法・談話・韻律の各側面から分析し、文類型上の位置づけについて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により予定していた出張と実験的調査が実施できず、関連する旅費と人件費・謝金を使用しなかったため次年度使用額が生じた。今後の新型コロナウイルス感染症の拡大・収束の動向仕方次第であるが、人件費・謝金の未使用額については、本年度実施できなかった実験的調査を次年度にまとめて行って使用する予定である。旅費に関しては次年度も関連学会はオンライン開催が中心となることが濃厚であり、また当初の想定上に関連書籍の購入が必要となる見込みであるため、旅費の一部を物品費に振り替えて使用する予定である。
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