研究課題/領域番号 |
20K13201
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井上 岳彦 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 共同研究員 (60723202)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カルムィク人 / ロシア帝国 / チベット仏教 / 教育 / 社会事業 / 福祉 / 慈善 / 保護 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、新型コロナウイルス感染症の流行継続およびロシアによるウクライナ侵攻によって、現地調査を実施することができなかった。当初の研究計画では、現地調査は本研究課題の探究において重要な位置を占めていたため、研究計画の大幅な見直しを行なった。現地の未公刊史料の代わりに国内所蔵の公刊史資料を用いることにし、ロシア帝国における宗教団体と社会事業の関係について検証するに留まったが、ここまでの研究成果を図書(分担執筆)2件、口頭発表2件という形で公表した。 アムステルダムで出版された英語論文集では、カルムィク貴族・仏教僧侶とロシア中央政府・地方政府との協力関係を中心に議論するとともに、両者の思惑の齟齬という部分にも注目した。こうした齟齬を丁寧に追っていくことが本研究課題の進展にとって重要となる。もう1件の図書は写真集ではあるが、現地研究者の協力を得て、現地アーカイヴ所蔵の古写真を掲載した。カルムィク社会の経済の根幹を成す牧畜の状況を理解するうえで、古写真という非言語資料も貴重となる。今後の本研究課題推進においても、積極的な蒐集を検討したい。 口頭発表としては、6月5日に早稲田大学高等研究所主催の公開講演会(オンライン)で発表し、帝国と宗教世界のあいだで揺れる個人を論じた。属人的要素が強いロシア帝国について、コメンテータや参加者から貴重な意見を得て、研究計画の軌道修正を図ることできた。また、9月2日に帝国医療関連の研究会に呼ばれ、オンラインで発表を行なった。ここでは社会事業を推進する政府と事業実施の担い手としての僧侶の複雑な関係性を論じ、ロシア帝国に留まらない諸帝国を研究対象とする研究者と有益な意見交換を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度においては、新型コロナウイルス感染症流行の継続と、ロシアによるウクライナ侵攻によって、ロシア地方都市の公文書館史料を収集することができなかった。現地公文書館での未公刊史料の蒐集は、本研究課題の研究方法において基礎となるべきものだったため、当初の研究計画を大幅に遅らせることになった。 ただし、令和3年度初めの研究計画見直しによって、国内所蔵の既刊史資料を用いた代替方法を計画したため、現地調査ができない状態をある程度補うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
ロシアによるウクライナ侵攻によって、補助事業期間中におけるロシア現地での史料蒐集や、研究成果の現地社会への還元・意見交換という、当初の研究実施計画で重視してきた研究方法は不可能となった。そのため、研究計画を大幅に見直し、孤児や高齢者の保護、貧民の生活改善、女子教育などの社会事業の制度史的な解明に注力することにする。 従来それぞれの法制度は個々には議論されてきたが、体系的に説明がなされてこなかった。また、それらの研究はロシアのその他の地域、とくにムスリム社会との比較の視点を欠いてきた。そのため、今後の研究推進方策として、ロシア全体(特にムスリム地域)での社会事業との比較、それぞれの事業分野相互の連関の解明を、国内所蔵の史資料から実施し、その上でカルムィク社会の宗教行政や政治的動向と組み合わせることで、これまでの研究に不足していた部分を補完する。 また、新型コロナウイルス感染症の流行状態やウクライナ情勢次第ではあるが、可能であれば、ロシア帝政期の公刊史資料を豊富に所蔵するフィンランド国立図書館を初めとする欧州の図書館や研究機関での研究調査を実施することで、ロシア現地調査ができない代替方法とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症流行の継続と、ロシアによるウクライナ侵攻によって、ロシア現地での調査ができず、ロシア渡航のための「旅費」、現地協力者に対する「人件費・謝金」、公文書館での複写費等に使用する「その他」の費目がいずれも使用できなかった。そのため、大幅に次年度への繰越金が発生した。 今後の使用計画としては、感染流行状態と戦争情勢次第ではあるが、国外での調査が可能であるならば、帝政ロシアの公刊史資料を豊富に所蔵するフィンランド国立図書館をはじめとする欧州の図書館や研究機関での代替調査に使用する計画である。
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