研究課題/領域番号 |
20K13201
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井上 岳彦 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 特任助教 (60723202)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カルムィク人 / ロシア帝国 / チベット仏教 / 社会事業 / 教育 / 福祉 / 慈善 / ボランタリー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ロシア正教を国教としていだくロシア帝国において、仏教徒、キリスト教徒、ムスリムの三者が混住・共存してきた地域の未公刊史料を利用し、カルムィク人の仏教教団がいかに自らの信徒を救済したのか、仏教教団による社会事業に焦点をあて、仏教教団がいかにロシア正教徒やムスリムの社会に対抗し、いかなる協力関係を構築したのかを分析することである。 しかしながら、令和4年度は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、申請段階での計画において予定したロシアでの史料調査を行うことができなくなったため、フィンランド・イギリス(11月)、ジョージア(3月)で調査を行い、ロシア渡航無しのロシア地方行政史研究の可能性を模索した。これらの調査は、本研究対象のカルムィク人社会における仏教教団と社会事業の関係についての解明に直結するものではないが、ロシア・ムスリム社会、アルメニアやジョージアにおける社会事業の展開を確認し、カルムィク人社会に関する本研究課題においても重要な視点を提供した。社会事業の制度化における相互参照の関係は、ロシアの公文書館史料でしか判断はできないが、同時代の傾向を読み取ることができた。さらに地域横断的な視点での研究を進める必要性を再認識した。 カルムィク人社会では、社会事業におけるボランタリー精神の利用や、obschestvennyi kapitalと呼ばれる基金にもとづく互助の制度化が進められたことが明らかになりつつあり、それらが社会事業の伝統的な担い手である仏教教団とどのような関係にあったのかをさらに調査することが必要である。 また、6月に開催された比較帝国史に関する国際ワークショップでは、ロシア帝国内の諸地域、さらにヨーロッパ諸帝国との比較の必要性が明らかとなり、本研究の世界史的重要性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度においては、新型コロナウイルス感染症の流行がある程度終息したため、国外での調査を行い、それによって国内では入手できない多くの資料を検証することができた。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻によって、ロシア地方都市の公文書館史料を収集することができなかった。現地の公文書館での未公刊史料を閲覧することで、中央政府の動向だけを追うロシア史の主流傾向に対し、地方からの視点による新たな知見を提供することが、本研究課題において重要だった。そのため、ロシアでの調査ができないことは、当初の研究計画を大幅に遅らせることになっている。 しかし、令和4年度初めの研究計画の見直しによって、フィンランド、イギリス、ジョージアでの調査でその不足を部分的に補い、国内所蔵の既刊史資料を用いた代替方法を計画したため、現地調査ができない状態をある程度解消することができた。 令和5年度も、ロシア以外での調査によって、本研究課題により適切な調査方法を模索する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルス感染症のパンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻による研究の遅れを補うため、当初の研究計画よりも研究期間を延長した。 令和5年度は、ロシアの公文書館史料を閲覧できない現状を補うため、カザフスタンでの調査を行う予定である。本研究対象のカルムィク社会と、北コーカサスの諸民族社会、中央アジアのカザフ社会、シベリアのブリャート社会とは、ロシア政府による社会制度の設計や維持において同時代的に相互参照が頻繁に行われたと考えられる。カザフスタンに所蔵されている様々な史資料の利用、カザフ社会の理解は、本研究の遅れを挽回し更なる発展を進める可能性を有しているため、カザフスタンでの調査によってロシア調査を代替する。 また、国内外の研究者と意見交換を行い、本研究の地域横断的な発展を模索していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
3年間続いた新型コロナウィルスのパンデミックによって、本研究の推進にとって重要な国外での研究調査を行うことができず、数年にわたって大幅に予算が余ることになった。令和4年度は、ロシアによるウクライナ侵攻によって、引き続きロシアでの調査ができなかったため、フィンランド、イギリス、ジョージアでの調査でそれを補ったが、全予算の支出とならなかった。また、年度初めに失職し生活状況が不安定だった期間があり、一時的に研究の進捗が停滞したことも当初通りの支出ができなかった一因である。そのため、研究期間を当初の計画より延長し、本研究を継続する予定である。 令和5年度の使用計画としては、カザフスタンでの調査を2回(9月、2月)行う予定であり、旅費として使用する。また国内外の研究者との意見交換を進め、本研究の成果を発信するため、ロシア史研究会での口頭発表を含む、国内外の学会に参加する。研究計画の見直しによって、当初計画よりも広域の資料が必要となったため、そのための書籍の購入に物品費を充てる。
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