最終年度である2023年度は、主に成果の取りまとめ作業をおこなったほか、3月にネパール・ソルクンブ郡にて補足調査を実施した。北部のクンブ地方ではコロナ後の山岳観光の現状を経過観察し、入込観光客数はほぼコロナ前の水準にまで回復していること、また山道の大規模な改修作業が政府の主導で実施されたことを確認した。また調査村では、大きな人口流出が起きる一方、他地域からの流入者によってロッジ経営が引き継がれていることを確認した。南部のソル地方では急速に車道の建設工事が進み、沿道の村では中心地域の遷移や、乗合ジープの運行開始、バイク保有台数の急増といった変化が起きていることを確認した。ガイドなど観光産業従事者の一部はジープ運転手や車両修理工などへの転身を図っており、生業の変化の過程が観察された。ただしトレッキングガイド業はジープの運転と、実践の面でも職業としての面でも類似した実践とみなされていることも聞き取れた。 本年度は研究期間全体の成果の一部として単編著を刊行したほか、論文二編(うち英語査読論文1)を発表した。またブックチャプターを2章、合計7件の口頭発表(うち査読付き学会発表2)を実施した。アウトリーチ活動にも努め、北アルプス雲ノ平山荘サイエンスラボの世話人や、全国山の日協議会の科学委員会オブザーバーとして知見を一般社会に還元した。 新型コロナウイルスの影響もあり、ネパールにおける調査は当初の計画通りには進捗しなかったものの、世界的な社会変動の期間におけるインフラと観光および文化の関係に関して貴重なデータを蓄積できた。また日本の事例との比較や国内への成果の還元に重心を移すことで、山岳地域の「より良い発展」の一助となる知見を提供できたと考える。
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