本研究は1950年代日本の国際法学分野において展開された朝鮮問題に関わる法理論争を主題とし、戦後日本の国際法学者による朝鮮問題への理論的アプローチを解明することを課題とする。1950年代国際法学者は朝鮮問題をいかなる国際法の法理に基づいて論じたかという問いから出発し、その理論的争点を捉える手続きとして、1940年代および1950年代における主権と国際平和機構をめぐる国際法学理論を検討し、他方において1930年代満州問題に関わる日本の国際法学者の研究実践を辿りながら、朝鮮問題に関わる当該法理論争を明らかにする。概して本研究は国際法学者と国際法学理論に関する歴史研究として位置づけられるものである。 2020年度においては、1950年代~1960年代の日本の国際法学者による朝鮮問題認識の構図、とりわけ朝鮮戦争認識に関わって、関連文献を収集、分析し、その系譜についての検討作業を推進した。その帰結として、次の三つの系譜を把握するに至った。第一に南北朝鮮の内乱に対する干渉行動と把握する系譜(入江啓四郎の議論)、第二に南北朝鮮の国家間戦争に対する国際警察行為と把握する系譜(横田喜三郎の議論)、第三に援韓軍派兵諸国の国連憲章違反と違法性阻却不可を論じる系譜(山手治之の議論)である。今後の研究においては、各論者による法学研究の方法論のあり様に焦点を当て、それらの系譜に関わる質的な研究に取り組んでいく。
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