最終年度においては、1930年代満洲問題と1950年代朝鮮問題に関わる両法理論争を視野に入れながら、中華民国の国際法学者Liang Yuen-Liによる国際法認識に関わる基礎文献調査を進めた。加えて、ソ連の国際法学者G. I. Tunkinによる博士論文「国際法からみた第二次世界大戦後の朝鮮問題」(1954年)に関わる基礎文献調査を進めた。 本研究では、日本の国際法学分野において展開された朝鮮問題に関わる法理論争を主題とし、実定法主義の角度と実定法主義を超えた角度の二段の構えから当該主題に接近した。研究期間全体を通じた成果として、当該論争状況に関わって、A)法実証主義の系譜、B)反法実証主義の系譜が認められ、その中に、A)の系譜に関わる、1)横田喜三郎による国際警察行為発動論、2)入江啓四郎による内戦論、3)山手治之による国際警察行為不成立論という学説の成立を確認した。その上で、1)と3)の学説との間に展開された論争を吟味するなかで、3)の学説が、国連憲章の諸規定に関わる実定国際法論に立脚し、かつ差別戦争の構造分析を見据えて実践され、その両者の角度を確保することによって、1)の立論における実定国際法解釈としての無効性=国連憲章の恣意的解釈適用批判、及び制裁戦争論議の危険性=殲滅戦争への転化批判を説いたと結論した。加えて、3)の学説に関わっては、a)現代国際法が国連を通じた集団安全保障を前提とすること、その例外規定及び欠陥をいかなるものと考えるかをもって、差別戦争観念を一律に適用する必要条件が現在の国際社会に欠けていると説く議論と、b)国連集団安全保障体制そのものが、実効的な紛争の平和的解決制度の完成を回避する迂回的な目的で規定されていることを議論の前提とし、その原則規定をいかなるものと考えるかをもって、差別戦争観念の一律適用の非合理性を説く議論とが成立していることを確認した。
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