研究課題/領域番号 |
20K13403
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
島田 英明 九州大学, 法学研究院, 准教授 (10802704)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 政治思想史 / 日本思想史 / 国学 / 神道 / 本居宣長 |
研究実績の概要 |
本年度は予定どおり、国学政治思想の大成者である本居宣長の検討を中心に研究を進めた。その成果は次の三点に約言できる。 まず第一に、宣長の主著『古事記伝』を詳細に検討した。従来、政治学分野での宣長研究のほとんどは、初期の歌論書および古道を扱う一群の小著(『くず花』『玉くしげ』等)を中心に進められてきた。彼の主著『古事記伝』は内容に見合う扱いを受けてきたとはいいがたい。そこで本研究では該書を精読し、彼の日本神話解釈(あるいは創造)につき理解を深めるとともに、特に「人の世」以後の記述に注目し、その倫理・政治・歴史思想の特質について新たな知見を得ることに努めた。成果は現在執筆中の論文として公表される予定である。 また第二に、本年度は国学についての研究史の把握を試みた。国学研究は多領域にまたがり豊かな成果を挙げているが、だからこそ研究史の総体が見えづらくなっており、無意識のうちに、新しい史料を用いた古い図式の再生産に陥っている研究も散見された。そこで本研究では、戦前までさかのぼって、現在に至る研究史を総体的に把握することを試みた。成果の一部は、倫理学分野での最新の成果『徂徠学派から国学へ』への書評として公表されている。 さらに第三に、宣長以前の和学・神道についての基本史料と研究史の検討をおこなった。宣長本人がいかに痛罵していたとはいえ、現在の研究者までそれらを軽んじてよいわけではない。成果の一部は、神道思想史の名著である『神道の逆襲』に関する小文として公表されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ・ウイルスの流行とそれに伴う行動制約を受け、研究計画にはいくつかの修正を迫られた。特に予定していた史料調査の多くは、県外への移動の禁止もしくは自粛のすすめに従い、ほとんど中止した。現状での進捗状況を「(3)ややお遅れている」と判断する所以である。 もっとも、その分の予算を基本史料の購入にあてることができ、国学政治思想の再構築に欠かせない多くの重要文献を入手し、検討することができた。とりわけ『古事記伝』の分析や研究史把握に関する成果は、概ね期待どおりであるといえる。来年度以降も行動に自粛が求められる事態がありうるが、予定していた史料調査を今後実行できれば、助成年度全体における成果にはさして影響はないのではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナ・ウイルスの流行をうけ中止した史料調査を二年目以降に繰り越す点を除けば、おおむね予定どおり研究を進めるつもりでいる。とりわけ二年目は、検討対象を宣長の以前/以後にまで拡張し、賀茂真淵や門人群の検討を進めたい。特に真淵や平田篤胤は戦後長く用いられてきた全集に大幅な補訂を加えた新全集が刊行されており(『賀茂真淵全集』『新修平田篤胤全集』など)、その検討が作業の中核をなすであろう。宣長において見られた諸特徴の変質過程を通時的に把握したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行およびそれに伴う行動制限をうけ、予定していた史料調査をくりこし、その分の予算を書籍購入に費やした。予定していた調査は安全の確保とともに次年度以降におこなう予定であり、次年度使用額はその折の使用を想定している。
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