研究課題/領域番号 |
20K13520
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
高原 豪 関西学院大学, 商学部, 助教 (70844421)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 医療政策 / 情報開示 / 情報の非対称性 / モラルハザード |
研究実績の概要 |
2020年度は一連の研究プロジェクトを構成する3研究のうち, 2研究について取り組んだ. 第1研究は, 規制当局や保険者による医療機関の治療成績の公表が診療報酬に与える影響を分析したものである. この研究では以下の仮定を置いた: i) エージェントである医師の能力は非対称情報であること, ii) 医師は先進的な治療をするための投資水準と治療法を選択できること, iii) 治療成績を公表することによって医師の能力に関する評判が形成されること, iv) 保険者 (プリンシパル) は能力の高い医師に限って先進的な治療法を選択する診療報酬を設計すること. この分析により, 以下の結果を示した: i) 治療成績を公表することによって, 先進的な治療法に対する診療報酬の期待値を必ず引き下げることができる, ii) 治療成績を公表することによって, 古典的な治療法に対する診療報酬も引き下げることができる. 規制当局や保険者による医療機関の診療成績の公表は, 最近の世界的な潮流であるが, Mak (2014, RAND) が指摘する通り様々な副作用を伴う政策である. 一方で本研究は, 治療成績を公表することによって診療報酬を削減することができ, 持続可能な社会保障制度を実現することを示した. 第2研究は, 医療機関の治療成績の公表が医療機関の行動 (診療拒否と投資活動) に与える影響を分析した研究である. 本研究でも医療機関の能力は非対称情報であることを仮定した. また医療機関は, 治療成績の内容だけではなく投資活動を通じても患者に対し自身の能力に関するシグナルを送ることができる状況を分析した. 分析の結果, Mak (2014, RAND) と同様に治療成績を公表することによって, 医療機関の非効率な行動 (患者の診療拒否と過剰な設備投資) をもたらす可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は以下の通りである. 第1研究に関する文献調査 (医療機関の戦略的な行動に関する文献, 治療成績の公表が医療機関の行動に与える影響を医学的・医療政策の見地から調査した文献) は, 2019年度中に完了した. 2020年度は, これらの文献調査に基づき, 理論モデルの構築を行った. このモデルでは, 医療機関のリスク回避行動や, 投資活動におけるモラルハザードだけではなく, 能力の低い医療機関による不適切な治療法の選択が発生する状況を分析した. 執筆作業も並行して実施し, 結果をまとめ上げた. ただし2020年度の学会報告の申込には間に合わなかったため, 成果の発表は2021年度中に行う. 第2研究では, 第1研究での文献調査に加えて, 診療拒否行動と投資活動が医療機関や患者の利得に与える影響について実証分析した文献の調査を行った. この文献調査から得られた知見を基に, 理論モデルの構築を行い, 医療機関が戦略的な行動 (患者の重症度に基づいた選択的な診療拒否行動とシグナルとしての投資活動) を取る状況について特徴づけを行った. 現在はモデル分析を継続実施中である (医療機関の治療成績の公表が経済厚生に与える影響等). 文献調査やモデル構築によって, 当初想定していたよりも緻密な分析ができ, より多くの結果を示すことができる見込みが立っており, 順調に進んでいるものと考えている. 以上のように, 第1研究においてやや遅れが生じているものの, 第2研究は想定よりも多くの結果を示すことができる見込みから, 計画全体はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
第1研究については, 2021年度5月頃投稿する予定である. 今後は, エディターからの要求に基づき, 論文を改訂し, できるだけ早く学術誌に研究成果を掲載できるように取り組む. 第2研究については, 基本的な分析のフレームワークは完成しているため, 残りの分析 (治療成績の公表が医療機関の戦略的な行動を通じて経済厚生に与える影響) を行う. また, 先行研究と同様に, 治療成績の統計的な調整が経済厚生に与える影響についても特徴づけを行う. 並行して執筆作業も行い, 2021年度中に投稿することを目標とする. 第3研究については, 2021年5月下旬から分析を開始し, 当初の計画通り2022年6月末までに投稿可能にすることを目標とする. また, 特に第2研究, 第3研究について積極的に研究発表を行い, 参加者からのコメント等を分析に反映させ, 価値の高い研究成果を示せるように取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用理由が生じた理由は以下の通りである: i) 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い, 出張を伴う海外での研究発表をする機会がなくなった, ii) 第1研究の第1稿の完成が遅れ, 国内・海外学会 (オンライン開催のものを含む) への応募期限に間に合わなかった. 2021年度は, 第1研究, 第2研究の発表のための出張旅費又は学会参加費 (オンライン開催も含む) や, 英文校正費として使用する予定である.
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