最終年度にあたる2023年度は、研究成果の発表に努めた。代表的な成果として、以下の2点を挙げておきたい。 ① 西アフリカ(および西中央アフリカ)の繊維産業の歴史について、植民地化以前の時代、とくに大西洋奴隷貿易の時代を対象にしてまとめた論文が、Oxford Research Encyclopedia of African Historyに掲載された。地理・環境条件(季節性)と繊維産業の関係、繊維産業の拡大の背景、繊維生産の様式(性別役割分業、技術)、布が貨幣として果たした役割、大西洋奴隷貿易が繊維産業におよぼした影響について概観した。 ② ①の論文で言及した季節性は、西アフリカの経済発展を歴史的視点から理解するうえでも重要な点である。この点を強調して植民地時代までの発展を論じた論文「植民地時代までの経済ー比較研究のための覚書」が、脇村孝平編『近現代熱帯アジアの経済発展ー人口・環境・資源』(ミネルヴァ書房、2024年)の1章として刊行された。①の論文が繊維産業に焦点をあてたものであるのに対して、本論文では地域経済の発展そのものを対象としている。もっとも西アフリカの経済発展の研究としては、A. G. HopkinsやGareth Austinの優れた研究がすでに存在している。本論文では、その研究蓄積を踏まえつつ、消費の役割を組み込む可能性を探求した。 ①と②では、植民地化以前と植民地時代が考察対象になっている一方で、植民地時代の後半から独立期については、今後も研究を重ねていく必要がある。しかし、ガンビアのオーラル・ヒストリー文書を読み進めた結果、植民地化以前と共通する点(繊維生産の季節性、性別分業体制、技術など)が明らかになった。
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