本研究が取り上げた「伝統」という一定の期間を通して構築された社会的な構造と、その革新に関する既存研究は、伝統を過去に関する何らかのモノや特徴に還元してしまう傾向にある。その結果、伝統の刷新は既存の要素と新しい要素の組み合わせなどによって説明されてきた。本研究は、伝統をそこに関わる人々の実践そのものとして捉えることで、その実践をずらし、これまでの伝統を規定するものを宙吊りにするという、これまでにない形での革新のあり方を示した。これは、実際に同様の問題を抱える老舗企業をはじめ、制度的な側面を踏襲しながらも革新を実現しようと試みる実務家にとっても示唆的であると考えられる。
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