研究課題/領域番号 |
20K13666
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
逢坂 裕紀子 東京大学, 文書館, 特任研究員 (80864602)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会学 / 美術工芸 / 博覧会 / 都市論 |
研究実績の概要 |
本研究は、近代の日本において内国勧業博覧会を契機として美術工芸関係者や関連産業がどのような移動と集中の現象をみせたのか、そして美術と地域に関するいかなる歴史叙述が生産されてきたのかを分析することを目的とする。地理的対象は、第1回から第3回の内国勧業博覧会開催地であった東京と、第4回開催地である京都、そして第5回開催地だった大阪としている。 2021年度は前年度から引き続いて、新型コロナウイルス感染症の拡大にともなう緊急事態宣言の発令および、まん延防止等重点措置の影響を受け、当初予定していた資料調査等は十分に行うことができなかった。しかし、限られた機会のなかで資料・文献調査をおこない、博覧会開催と都市計画の関係を示す資料の収集・分析を行った。また、以前より継続してきた、第1回から第3回までの内国勧業博覧会開催地である東京・上野にある仲町通り商店街でのフィールドワークで得られた画像資料や文書資料、聞き取り調査による証言などをまとめ、ウェブサイト「しのばず和文化プロジェクト」(https://shinobazu-wa.com/)を作成、公開した。同ウェブサイトでは、美術工芸とその関連産業とともに発展してきた地域の歴史・文化を紹介するコンテンツを提供し、研究成果の社会的還元を行なった。 さらに、これまでの資料調査から見えてきた、デジタル化された文化・知的情報資源の帰属および知的所有権に関する学術的議論を整理し、デジタル・アーカイブ学会「第1回DAフォーラム」で研究報告を実施した。次年度は同報告を論文化する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、前年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症の影響により図書館や文書館、各研究所の図書室の利用をはじめとする外出が制限されたことにより調査活動に支障をきたした。 当初計画で予定していた、資料調査のための東京都外への出張は新型コロナウイルス感染症の影響により1回のみの実施となった。地域の公式の歴史叙述は、自治体が発行した都道府県史・市町村史に著されることが多く、博覧会開催や博物館や美術学校の開設もそのなかに位置付けられている。また、美術関係機関による年史資料にも地域に関する記述をみることができる。それらの叙述を共時的・通時的に比較検討し、美術と地域に関する叙述の内容や叙述スタイルの変化と差異を明らかにするため、現地での資料調査が必要不可欠であるがそれらを十分に行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
内国勧業博覧会開催地であった東京・京都・大阪を対象とし、1. 美術工芸関係者たちの移動と集中の解明と、2. 美術と地域に関する歴史叙述の分析を行うことで、近代美術制度の形成と都市空間の変容の関係性を分析する。明治期・大正期に活動していた美術工芸界の関係者に関する資料の調査分析と地域に関する歴史記述の分析を行い、彼らの移動と集中がその後の都市空間の形成や変容にどのように作用したのかについて検証する。 明治大正期に刊行された書画家番付や博覧会関係資料、先行研究から美術工芸関係者の住所や関連産業の所在地に関する情報を用いて、その移動と集中を明らかにする。明治維新以降、幕藩体制において維持されていた絵師や彫金師の社会的ネットワークの解体と再編が指摘されるが、美術工芸者たちの移住の過程は十分に解明されていない。具体的には国立文化財機構東京文化財研究所が2018年に公開した明治大正期刊行の書画家番付のデータベース上のテキストデータや、『内国勧業博覧会出品目録(第一回から第五回)』(内国勧業博覧会事務局)及び『温知図録:調査研究報告書』(東京国立博物館)、東京藝術大学大学史史料室所蔵資料などを対象として、得られたデータの量的分析をもとに近代化における美術工芸関係者の移動と集中、制度、地域の関係性を検討する。さらに、作家本人、博覧会・学校関係者、美術団体、地域住民、研究者など、多様な主体による、美術と地域についての叙述を分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、新型コロナウイルス感染症の影響により当初予定していた都外での調査が十分に行えなかったためである。2022年度は感染拡大状況を鑑みつつ、資料調査に赴く予定であるが、現地を訪れることが難しい場合には複写請求などにより資料調査を実施することとする。
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