本研究では、協働的な学習とその評価の質を高めるカリキュラムの在り方を明らかにし、形式的・技術主義的な授業づくりを乗り越える実践指針を発信するために、次の二つの課題を設定している。(A)カリキュラム論のレベルで協働的な学習の原理的構造を検討し、真に「主体的・対話的で深い学び」を実現できる実質的な実践指針を導き出す。(B)Aの理論的検討を通して得られた知見やモデルを実践現場にて検証することで、協働的な学習の質を高めるカリキュラム、ひいては授業の在り方を明らかにする。最終年度となる2022年度は、前年度までに引き続き課題Aに関わる文献調査を進めるとともに、これまで感染症対策の観点から十分に行うことができていなかった課題Bにも取り組むことができた。具体的な実績は次の2点にまとめられる。(1)文献調査から、日本において学習集団や生活集団の質を高めることを目指してきた学習指導・生活指導の理論・実践が、ほとんどの場合学級経営の問題と関わって展開してきたこと、そしてそうした学級経営のプロセスが、日本の協働的な学習の基盤に位置づけられることを再評価し、その具体像を描き出した。そのうえで、学級経営を文化-歴史的視点から分析することで、人間関係や組織といったレベルを超え、人工物を含み込んで発展していく協働的な学習の具体像(カリキュラム)を展望した。このような観点から、協働的な学習の授業づくりを、形式的・技術主義的にではなく状況・文脈に着目する形で行っていくことの重要性が示唆された。(2)フィールド調査において、協働的な学習に参加した学習者の姿や成果物を手掛かりに、「個別最適な学び」「協働的な学び」の内在的な互恵性を明らかにした。実績1において明らかになったとおり、ICTなどの人工物は、これらの互恵的な連関においても重要な役割を果たしている。
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