本研究の目的は,ラーニング・プログレッションズ研究(LPs)を歴史教育に応用することで,歴史授業における知識・資質の段階的・複線的な探究過程をモデル化し,学習論を視点とする新しい歴史探究学習を提起することにある。そこで,初年度では,学習者が歴史資料を対象につくる「素朴な問い」を,段階的複線的に向上させる授業方法論と授業内容論の解明に取り組み,問いの構築学習の高校歴史単元を開発した。研究の二・三年次では研究協力者による歴史単元の実践と検証を繰り返し,学びの漸進・上昇の道筋が個別的複線的であり,学習者の達成度も変化することをモデル図にして明らかにした。最終年度では,これまでの研究で明らかにした新しい歴史探究学習である問いの構築学習とその探究構造の論理を,学習者の段階的・複線的な探究過程として精緻化し,そのモデル図の検証を進めた。そのため,これまでの実践・検証研究を踏まえ高校歴史単元の探究過程を研究協力者と協働して改善し,改めて,実践・検証した。その結果,次のように研究を遂行することができた。(1)問いの構築学習における学習者の複線的な探究過程は,学習者の作成する多様な問いを,問いの構成要素である「問いの思考(疑問詞と動詞)」「問いの主体(問いの主語)」「問いの対象(動詞の対象)」を視点にすることで,その違いを明確化できることを検証し,モデル図の客観性を高めた。(2)問いの構築学習における学習者の段階的な探究過程は,駆動問題と学びの漸進・上昇が対になり「達成した/達成しなかった」ではなく,同じ駆動問題によっても学びの漸進・上昇の違いが生じることを検証し,モデル図を精緻化した。
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