研究課題/領域番号 |
20K13901
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中野 元太 京都大学, 防災研究所, 助教 (90849192)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 防災教育 / 国際支援 / リスク社会 / リスクコミュニケーション / 長期評価 / ネパール / メキシコ |
研究実績の概要 |
国際防災教育支援の効果が支援対象地域に定着しないという課題がある。つまり支援者が被支援者に防災教育支援をしても、被支援者が防災教育を実施するに至らない。その理由を探るため(1)支援者と被支援者との間の災害リスクのみなし方の差異、(2)専門知のコミュニケーション、(3)防災教育の長期評価、の3つの視点から検討を行った。これらは既に査読付論文として発表済である。 (1)支援者と被支援者との間の災害リスクのみなし方の差異を、ルーマンの「危険/リスク」概念を導入して検討した。防災教育は自然災害による被害を人間(当事者)の選択・決定によって大にも小にもなるとみなすリスク社会(たとえば先進国)において機能する実践であり、自然災害による被害を人間(当事者)の選択・決定と因果関係はないとみなす危険社会(たとえば発展途上国)では機能不全になる。この差異が定着を妨げる一要因であり、危険社会においては仕掛学的防災教育を取り入れることが定着に寄与する可能性を指摘した。 (2)支援者と被支援者との間の専門的知識のコミュニケーション不全も、定着しないことと密接に関係する。メキシコ・シワタネホで行った研究では、津波浸水シミュレーション(自然の動き)と避難訓練(人の動き)とをオーバーラップさせて表示する動画ツールを開発し、専門家(支援者)と学校教員(被支援者)との間の津波避難戦略の熟議と合意形成プロセスについて分析した。 (3)現在の防災教育研究では長期評価が圧倒的に不足している。そこで2003年前後に防災教育支援の対象となった高校生らの卒業後を2015年のネパール大地震直後まで追跡調査した。結果、社会人になり若者防災委員会を設置し耐震化を進め、ネパール大地震時の被害を軽減していたことなどが明らかとなった。この長期評価で、防災教育を通じた被支援者の長期的主体性形成プロセスを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では災害観や教育学に関するレビューを実施し、国際防災教育の定着に関する検討を行うとしていた。この計画に基づいてレビューを実施し、国際学術誌に論文2本、国内学術誌に論文1本が掲載されており、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では、2年目以降ネパールおよびメキシコでのフィールドワークを行うこととしていた。しかし、新型コロナウイルス感染症によって海外出張の可否が見通せない。そこで、1年目に行ってきたレビューおよび理論的整理を継続するとともに、既にネパール、メキシコ両国のカウンターパートと良好な関係を築けていることからオンラインを活用したインタビュー調査を併用し、研究を進めることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症による出張機会の減少によって当初予定していた予算執行には至らず次年度使用額が生じている。次年度も新型コロナウイルス感染症の影響はあると考えられるが、感染状況に十分留意しながら可能な範囲でフィールドワークを再開し計画的な予算執行を行う。
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