本研究課題は東アジア社会における社会的格差の生成プロセスの差異に関して、教育訓練システムのマクロ的な特徴から明らかにすることを目的とした。研究実績は主に次の4点に分類される 第一に、日本社会の教育と労働市場の接続についての特徴を分析した。その結果として、「学校経由の就職」と呼ばれる制度的特徴は近年においても、無視できないほどの規模を保っており、かつ若年者の労働市場への安定的な移行に寄与していることを明らかにした。 第二に、職業教育の強さによって教育訓練システムを類型化するフレームワークを適用した分析を行った。その結果として、教育の職業志向性が弱いとされる日本社会においても、学歴と職業の接続のパターンには相当な異質性があることを明らかにした。 第三に、日本と台湾における人々の職業キャリアに関して比較を行った。個人を追跡したパネルデータの分析から、学歴と職業軌跡との関連は日本よりも台湾においてより強く、また日本の女性にくらべて台湾の女性の方が上昇移動の傾向を示しやすいことを見出した。 第四に、不平等の多元性を従来とは異なる方法で検討した。社会階層は人々が持つ様々な属性から単に加法的に構成されるのではなく、それぞれの属性が複雑に相互作用することが理論的には想定されてきた。この問題に対して階層ベイズモデルを適用することで、教育達成において階層間の交互作用に由来する割合を定量的に示し、複合的な有利・不利についての示唆を得た。
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