本研究課題の目的は、被害者が成人してからの児童期トラウマによる影響メカニズムを、複数の心理学的理論に則って検討することであった。具体的には、大きく3つの研究を行った。 第1に、世界的にメジャーな児童期トラウマの測定尺度であるChildhood Trauma Questionnaireの、日本人サンプルにおける信頼性・妥当性を検討した (CTQ-JNIMH)。その結果、健常群においては一部下位尺度でやや信頼性が低いことが示されたが、概ね当該尺度は日本人においても妥当に使用可能であることが確認された。 第2に、素因ストレスモデルに則った検証を行った。具体的には、「児童期トラウマがデイリーハッスルからによる悪影響を増大し、心理的不調を助長する要因となっている」という仮説を設定し、一般男女を対象とした2時点縦断調査によって検討した。その結果、デイリーハッスルとの関連における児童期トラウマの効果は、ぞの種類により異なることが確認された。 第3に、ソーシャルサポート理論と児童期トラウマの世代間伝達に着目した検討を行った。具体的には、「児童期トラウマの被害者は育児中にソーシャルサポートをうまく活用出来ず、それが原因で育児の問題や困難を抱えやすい」という仮説を設定し、横断調査と2時点縦断調査でその是非を検討した。仮説は概ね支持された。当該研究では当事者の内観についても自由記述で回答を得ており、ソーシャルサポートが機能しない理由を考察し、解決策を提案している。
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