研究課題/領域番号 |
20K14321
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
齋藤 俊輔 東京理科大学, 理学部第一部数学科, 助教 (10846752)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | K安定性 / トーリック多様体 / 漸近的Chow安定性 |
研究実績の概要 |
ケーラー幾何の中心的な問題である「標準ケーラー計量の存在問題」と関連して、偏極代数多様体の幾何学的不変式論の意味での安定性がいくつか提案されている。本研究の目的の一つは、複数あるK安定性の強化概念や漸近的チャウ安定性などの相互関係を明確に理解することである。今年度は昨年度に引き続きK安定性と漸近的チャウ安定性の関係について研究を行い次の研究成果を得た。
(1)トーリック曲面における漸近的チャウ安定性について研究を行い、「漸近的チャウ半安定性の障害が消えているような偏極トーリック曲面において、極大代数的トーラスに関する同変(一様)K準安定性から漸近的チャウ準安定性が導かれる」という結果を得た。これは複素数体上で満渕によって得られていた「漸近的チャウ半安定性の障害が消えているような非特異偏極代数多様体において、スカラー曲率一定ケーラー計量の存在から漸近的チャウ準安定性が導かれる」という定理の類似である。我々の結果は曲面に限定されているが、基礎体が複素数体に限らない標数0の代数閉体でよいことと曲面が特異点をもってもよいことの2つの利点がある。
(2)相対チャウ安定性の定義を再検討し、新たな定義に到達した。鍵は二木-満渕によって導入された端的ケーラーベクトル場の量子化を導入する点である。つまり端的ベクトル場と同様の性質をもつ正則ベクトル場の列であって端的ベクトル場を極限とするものを発見し、相対チャウ安定性の定義における端的ベクトル場をこの量子化に置き換えたものを新たな相対チャウ安定性と定義する。従来の意味では漸近的チャウ不安定だが我々の意味では漸近的チャウ準安定な3次元トーリックファノ多様体が存在するためこれらは完全に異なる安定性である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の懸念であった相対チャウ安定性の新たな定義を発見できた点とトーリック曲面におけるK安定性と漸近的チャウ安定性の関係を思いがけず明らかにできた点から進捗は順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
・我々の意味での(漸近的)相対チャウ安定性の性質をより深く理解するために、例えば偏極トーリック多様体における判定法を確立する。 ・昨年度得た結果の相対版である「強相対K安定性は一様漸近的相対チャウ安定性を導く」を示すために被約L1ノルムの偏極冪に関する極限について考察する。 ・これまで得た結果をトーリック多様体以外の対称性の高い偏極代数多様体に拡張する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の世界的流行によって国内外の研究集会・シンポジウムや他研究者との打ち合わせは中止ないしはオンラインにて行うこととなった。そのため旅費として支出する予定だった分の経費がそのまま残り未使用金が生じた。
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