本研究計画では、標準理論で最も重いトップクォークに着目し、その様々な性質(スピン相関、荷電非対称度、質量など)を高精密に測定することで標準理論からの僅かな逸脱を探索することを目的としている。 最終年度は、機械学習と人工知能(AI)を用いた新たなトップクォーク再構成手法の検討と背景事象との弁別方法の研究を行った。特に2023年度は、高度なAIにも使われるグラフニューラルネットワークを応用したトップクォークとその背景事象の弁別方法を確立し、従来手法に比べて性能改善できることを明らかにした。特に単トップ生成など終状態が同じで区別できない背景事象についても有効であることを明らかにした。この結果を物理解析に適用することで大きな誤差要因の一つを低減できる可能性があり、今後の研究に発展可能である。 また、目標の一つであったトップクォークの稀崩壊事象の解析に向け、トップクォーク信号を識別する際の主な手段であるフレーバータグの性能改善を試みた。2023年度は、Chat-GPTなどにも使われるトランスフォーマーアルゴリズムをフレーバータグに応用する手法を開発し、性能改善を試みた。しかし同様の既存のアルゴリズムと遜色ない結果を得るにとどまった。 研究機関を通じては、目標の一つであったトップクォーク荷電非対称度の精密測定に成功した。ベイズ統計に基づく系統誤差フィット手法を適用することで測定感度を大幅に向上させ、トップクォークの非対称度をはじめて有意な精度で測定することに成功した。
|