研究課題/領域番号 |
20K14500
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
重河 優大 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (60845626)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トリウム229 / 電子架橋遷移 / 核異性体 / イオントラップ / RFカーペット / ガスセル / イオン分子反応 |
研究実績の概要 |
Th-229mはTh-229原子核の第一励起状態であり,8.3 eV程度という極端に低い励起エネルギーを持つ.そのため、Thの電子状態によっては、γ線放出過程や内部転換過程よりも高次の壊変過程である電子架橋遷移(電子遷移を介したγ線放出過程)が観測される可能性がある。特に電子架橋遷移が起こる確率が高いと考えられているのが1価のTh-229mイオンである。本研究では、イオントラップ中で2価のTh-229mイオンと分子を反応させるという手法を用いて、1価のTh-229mイオンを生成・制御し、電子架橋遷移を世界で初めて明確に観測することを目指す。 2021年度は、前年度に製作したRFカーペットガスセル装置の性能評価を実施した。ガスセル内にRa-224線源を設置し、α壊変の反跳エネルギーで飛び出してくるRn-220イオンを、RF電圧・DC電圧を印加することで高真空中まで引き出し、四重極質量分離器で質量分離し、チャンネルトロン検出器で検出した。最適な電圧を印加することで、引き出し効率約16%程度を実現した。 次に、前年度作製した大型のU-233線源をRFカーペットガスセル装置に設置し、U-233線源から飛び出してくるTh-229イオンの引き出し実験を実施した。引き出されたイオンの質量スペクトルを測定したところ、Th-229の3価、2価、1価のイオンのピークが観測された。特に、3価のイオンの強度が最も高く、1秒あたり1万個以上を引き出すことができた。 さらに、イオンを効率よく輸送・減速・蓄積できるようなイオントラップを設計・製作した。従って、Th-229mのイオントラップ実験を実施するための準備がほぼ整ったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RFカーペットを用いてU-233線源からTh-229の多価イオンを引き出すことに成功し、さらに、イオントラップの設計・製作も完了したため。次年度は、Th-229mイオンを用いたイオントラップ中でのイオンー分子反応実験をすぐに実施できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、RFカーペットガスセルを用いてU-233線源からTh-229mの2価のイオンをイオントラップまで引き出し、トラップ中で蓄積する実験を実施する。まず、イオントラップ領域を1 Pa程度のHeガスで満たし、イオンを十分な時間ロスなく蓄積できるような電圧条件を決定する。また、Th-229mイオンが引き出されていることを確認するため、Th-229mの2価のイオンをMCP検出器まで引き出し、Th-229mの内部転換電子を検出する。次に、トラップ領域にNOガスを導入し、電荷交換反応によって1価のTh-229mイオンを生成する。反応時間とTh-229mイオンの量(MCPで検出された内部転換電子の量)の関係を調べることで、1価のTh-229mイオンの半減期を決定する。U-233から引き出されるTh-229のイオン量は2価よりも3価の方が多いため、2価のイオンを直接引き出す場合に信号量が不足する可能性がある。その場合は、3価のイオンをまずイオントラップまで引き出し、2段階の電荷交換反応によって1価のイオンに変換することを試みる。 1価のTh-229mイオンの半減期を決定した後、イオントラップの近くに光電子増倍管を設置し、電子架橋遷移で発生する光子の観測を試みる。また、イオントラップ中に導入するガスの種類を変えて、Th-229m分子イオンを生成し、電子架橋遷移が観測されるかどうか、半減期が変化するかどうかを調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
光電子増倍管等一部物品の選定と調達が完了しなかったため。次年度は、早急に選定と調達を完了し、必要物品を購入する予定である。
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