超吸水性ポリマーの世界規模での需要拡大に備え、原料となるアクリル酸をバイオマス由来グリセロールからカーボンニュートラルにワンステップで高効率合成できる、新規機能協奏型リン添加W-V-Nb系複合酸化物触媒の機能設計が本研究の目的である。この目的を達成するために、本年度はリンの添加によって生じるW-V-Nb-O触媒の結晶構造変化について、電子顕微鏡や窒素吸着等によって詳細に調査した。またこれらのリン添加W-V-Nb-O触媒について、ワンステップ合成の後段反応であるアクロレイン酸化に対する触媒性能を評価した。触媒の結晶構造がアクリル酸合成反応の活性および選択性におよぼす影響を考察することによって、アクリル酸合成触媒の設計指針を得た。 リン添加前のW-V-Nb-O触媒をTEMで観察した結果、六方晶WO3と同様の構造を有する結晶が大半を占めていた。一方リン添加W-V-Nb-O触媒では六方晶の結晶は見られず、直方晶の局所構造を有する結晶が形成していた。さらにリン添加量を増加させると三方晶へと結晶構造が変化することがわかった。直方晶あるいは三方晶W-V-Nb-Oは、アクロレインからのアクリル酸合成に極めて高い選択性を示すMo-V系触媒と同様の結晶構造を有しており、W系ではまだ誰も合成に成功していない新物質である。これらの触媒をアクロレインからのアクリル酸合成反応に用いたところ、リン添加した直方晶あるいは三方晶W-V-Nb-Oはリン添加前の六方晶W-V-Nb-Oよりも高い活性と選択性を示すことが明らかになった。リンの添加量、金属の比率、pH等の合成条件を精査し、結晶性と純度を高めたW-V-Nb-Oを触媒として活性点構造を精密に制御すれば、アクリル酸収率をさらに向上できると考えられる。
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