研究課題/領域番号 |
20K15232
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
宇都 卓也 宮崎大学, キャリアマネジメント推進機構, 助教 (60749084)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | セルロース / キチン / イオン液体 / 分子シミュレーション / データ駆動型解析 |
研究実績の概要 |
構造多糖であるセルロースおよびキチンは木質細胞壁や甲殻類外骨格などの主成分で、何本もの分子鎖が集合した高結晶性繊維として生産される。特に、パルプから溶解や加水分解、誘導体化などを経て、繊維・バイオケミカル素材やバイオマス燃料といった産業利用が推進されている。最近では、ナノファイバーが環境調和型の高機能性材料として大きく注目されている。しかしながら、構造多糖材料は高結晶性のために水や一般的な有機溶媒に難溶で加工性に乏しい。イオン液体(100 ℃以下で液体として存在する溶融塩)が構造多糖を溶解することが報告されて以来、セルロース・キチンを溶解するイオン液体が注目されている。構造多糖に対する優れた溶媒系構築は材料の機能性付与だけでなく、バイオ燃料変換における前処理技術としても重要である。 セルロース・キチンにおける溶解・膨潤に関する界面メカニズムの解明を 目的とした計算化学研究に取組んだ。選択する計算手法により時空間スケールが限定されるため、現象を適切に再現できる計算システムを構築した。さらに、AIを活用することで、計算精度に依存する分子力場パラメータの効率的な決定手段を確立した。バイオエタノール生産の前処理で用いられるイオン液体は微生物を死滅させ、連続的な発酵を阻害することが指摘されている。そこで、低毒性の両性イオン液体中でのセルロース結晶の分子動力学シミュレーションを実施し、セルロース溶解機構を解析した。溶媒探索技術の確立を目指して、様々なタイプのイオン液体の構造物性相関を分子レベルで明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な構造を持つイオン液体によるセルロース・キチンの溶解シミュレーションを実施するために、高精度な分子力場パラメータ開発手段を初年度に開拓できた。イミダゾリウム型、ピロリジニウム型、アンモニウム型およびホスホニウム型のカチオン構造を有するイオン液体について体系的な分子力場パラメータ開発に着手している。試行計算では、実際の物性値だけでなく、セルロースやキチンの溶解性を部分的に再現する結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
セルロース・キチン溶解機構の解析を実施し、溶媒系の分子構造依存性を体系化することを目標とする。そのために、分子シミュレーションでセルロース・キチン溶解性を評価できる指標を提案する。その上で立体構造や熱力学量の変化をベースとしたデータ駆動型解析の適用を検討する。さらに、微生物への毒性として、細胞膜を想定した脂質二重膜モデルに対するイオン液体との親和性についても評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は当初想定していたよりも計算資源を必要としなかった。その一方で、体系的な分子力場パラメータ開発を進めるに当たって、膨大な数の入力ファイルを作成する必要が生じたために大学院学生を2名雇用した。加えて、コロナ禍で学会発表にかかる出張を中止した。こうした事情から、予定していた直接経費の使用額から変動した。次年度以降は、様々な系を対象とした分子シミュレーションのために計算資源を必要とすることから、スーパーコンピュータの使用料が増大する見込みである。
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