研究課題
本研究では、構造多糖材料の界面構造における基礎的知見の不足が、材料開発のボトルネックとなっていることに注目し、計算化学的アプローチによって界面ダイナミクスを解析する手段を開拓した。これまでに、①イオン液体系におけるセルロース・キチン溶解シミュレーション、②イオン液体/共溶媒の脂質二重膜モデルに対する相互作用に基づく細胞毒性評価、③多糖関連材料やイオン液体を対象とした分子力場パラメータ決定法の改良、について取り組んできた。研究成果として、様々な種類のイオン液体のセルロース・キチン溶解性と細胞毒性をMD計算によって体系的に評価することに成功した。この際、データ科学との連携によって、分子力場パラメータ決定の方法を改良した。こうした研究を通して、構造多糖材料の溶解機構や溶媒系の細胞毒性に関して分子論的観点から提案した。さらに、理論・実験的アプローチによるピロリジニウム型イオン液体の物理化学的特性に関する研究を契機として、イオン液体の構造物性相関に着目した分子シミュレーションおよびデータ駆動型解析にも着手している。特筆すべき点として、化学構造上の違いが反映するイオン液体の物性を、輸送特性は立体配座挙動と平均二乗変位で、融点は系の密度とイオン分布の規則性で理論的に解析できることを見出した。したがって、分子シミュレーションと合成実験のアプローチによって、高い輸送特性で低融点のイオン液体を探索するスキームを確立することができた。
2: おおむね順調に進展している
当初研究計画で設定した通り、イオン液体中におけるセルロース・キチン溶解機構や細胞毒性を分子動力学計算によって体系的に評価している段階である。ウェット実験系では対象とされてこなかったカチオン・アニオン構造についても同様の解析手段を適用することで、新規な溶媒系候補の提案に取組んでいる。高精度な分子力場パラメータを迅速に決定する方法を確立したことで、様々なイオン液体系を体系的に解析することができるようになった。そうした経緯から、イオン液体の物理化学的特性を体系的に解析する研究にも着手した。
構造多糖材料/イオン液体における分子シミュレーションと材料物性実験の高信頼性データを取得する段階に突入しており、それらに基づくデータ駆動型解析による溶媒探索や材料開発に展開する。また、深共晶溶媒などについては分子シミュレーションでの解析事例が乏しいことに着目し、こうした技術的に困難な対象系についても積極的に取組む予定である。
概ね当初計画通り使用しており、端数を繰り越したため
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