研究課題/領域番号 |
20K15302
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
亀渕 萌 日本大学, 文理学部, 助手 (60758564)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 透明発光体 / プロトン伝導フィルム / Nafion / 希土類錯体 / フルカラー発光 |
研究実績の概要 |
単一のガラスやフィルムにおいて複数の発光波長を外部刺激で制御できるような透明材料を開発するため、陽イオン交換膜・プロトン伝導膜として知られるナフィオン(Nafion)と発光性希土類錯体分子を組み合わせることにより、透明発光フィルムの開発を行ってきた。最近では、pH応答性希土類錯体[Ln2(PBA)6](HPBA = N-(2-pyridinyl)benzoylacetamide, Ln = Eu, Gd, Tb, Dy)を基盤物質として、透明発光フィルム[Eu2(PBA)6]/[Tb2(PBA)6]@Nafionなる2成分系フィルムに対してpHおよび印加電圧によって発光色を赤~緑に制御することに成功してきた。本研究では、この透明発光材料をさらに発展させてフルカラー発光材料を目指すにあたって青色発光の要素を組み込むため、キナアルカロイドの一種であるキニーネを導入したβ-ジケトン型配位子HPPAQを新たに合成し、希土類錯体を合成することを目指してきた。本年度は各種希土類金属の錯体化合物を大量に得て、大面積のフィルム作成等を行っていくにあたり、配位子の大量合成を行うことが課題となった。前年度実施した、強塩基存在下でブロモアクリル酸エステルとアセトアミドピリジンの反応ではかなり収率が悪いため、β-ジケトン型構造を形成する別ルートの合成方法を検討することにした。現在、4-bromo-3-butene-2-oneとdiethyl carbonateによる合成ルート、および4-pentene-3-oxo-N-(2-pyridinyl)acetamideとquinineのオレフィンメタセシス反応の両面から高収率の合成方法を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では大面積のフィルム作成を進めていく予定であったが、化合物の収率を向上させることを優先させたため、上記のような自己評価を下した。特に、今後透明フィルム作成を行っていくにあたり、10^-5 M程度の低濃度溶液から10^-2 M程度の高濃度溶液まで母液濃度を変化させてNafionを浸漬させる必要があり、化合物の量を多く確保することが重要になってくるためである。強塩基の存在下、cis-bromoacrylate ethyl esterとN-(2-pyridinyl)acetamideからβ-ジケトン構造を合成する過程において収率が悪いことは、保護基の検討や強塩基条件の検討を行う必要がある。しかしNaHやLAH等の試薬を使用することが推奨されないため、別ルートの検討を行うに至った。現在のところ、5-bromo-4-pentene-3-one-carboxilate ethyl esterからのMizoroki-Heck反応、あるいは4-pentene-3-oxo-N-(2-pyridinyl)acetamideを用いたオレフィンメタセシス反応において高収率が期待でき、条件を詰めていくところである。
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今後の研究の推進方策 |
HPPAQ配位子の大量合成に関する検討を速やかに終えたい。続いてHPPAQ-Tb, Eu錯体による大面積のフィルムLn-HPPAQ@Nafionの作成を行い、これらを切り分けて発光スペクトルのpH依存性について調査を行う。最後の段階として、Ln-HPPAQ@Nafion (pH 2-3)を用いて電圧印加によるプロトン伝導を利用したフルカラー発光の制御まで検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に予定していた国内(錯体化学会討論会)および国外(ACCC8, Pacifichem2021)の学会参加に係る旅費等を計上していたが、いずれも新型コロナウイルス感染症の問題のためオンライン開催あるいは2022年へ延期となった。また、国外への出張自体許可されていない。その差額として次年度使用額が発生した。次年度、粉末試料やフィルムを低温測定可能なサンプルホルダーの製作費として充当することを計画している。
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