研究課題/領域番号 |
20K15324
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
松前 義治 東海大学, 工学部, 助教 (80835869)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 次世代二次電池 / マイクロ波合成 / Li2S電池 / クレイ型電池 / リチウム塩 |
研究実績の概要 |
これまでは、家庭用電子レンジで硫化リチウムのマイクロ波合成を行っていたが、照射強度や照射時間が不安定なため、不純物が生成するなど安定な合成が不可能だった。そこで、マイクロ波の出力や照射時間を精密に制御可能なマイクロ波合成装置を導入した。XRD測定結果から、再現性の高い安定した硫化リチウム合成が可能になったことを確認した。また、電子レンジでは、合成中の試料が1000℃を超える高温に達し、アルミナ製るつぼが破損することが多く、その際の試料では十分に反応が起きていないことも判明した。反応容器について、材質・形状・原料搭載方法などの検討を行い、現在では加熱ムラがなく反応が均一に進んでいることを確認している。また、透明な石英製の容器の蓋を導入したことで、合成中の内部観察と、放射温度計による温度変化測定が可能になった。合成中に硫黄と思われる物質が揮発し、蓋の裏面に付着した後、再度消失することを確認した。これは、蓋にはある程度の気密性が必要なことを意味しており、また一方で、蒸発温度が低い(資源的に豊富で安価な)硫黄自体を原料として利用できる可能性も示唆している。そこで、今まで原料として用いてきた(硫黄元素を含む)硫酸リチウム以外の原料からの硫化リチウム合成を検討した結果、硫黄と安価なLi塩を組み合わせることで、硫化リチウム合成が可能であることを見出した。合成原料の選択肢が広がったことは、産業的な将来性を考えると極めて重要である。 硫化リチウムの充放電試験では、初期充電時に大きな過電圧を観測した。この原因については諸説あるが、結晶サイズが大きいときに過電圧が大きくなる傾向が知られている。マイクロ波合成装置では合成時の温度を測定しながら照射強度を変更できるため、合成条件検討により過電圧を小さくできる可能性がある。また安定した電池作製プロセスを実現するために、コインセルかしめ機も導入した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書では研究目的達成のためのロードマップを示したが、1年目では以下3つの予定で本研究課題を進める予定であった。全てにおいて、おおむね計画通りに進行している。 1つ目は、電子レンジを利用した硫化リチウムのマイクロ波合成である。マイクロ波精密照射が可能な合成装置を導入する前段階では、市販の電子レンジを使って様々な合成条件の検討を行う予定であった。実際に、様々な原料の組み合わせを試し、現在では複数の原料候補を見出すことに成功している。また、電子レンジでは、合成中の試料が1000℃を超える高温に達し、アルミナ製るつぼが破損することが多く、その際の試料では十分に反応が起きていないことも判明した。現在では、新規に導入したマイクロ波合成装置にその役割を置き換えられつつある。 2つ目は、マイクロ波合成装置の導入である。当初は装置を自作する予定であったが、低価格で高性能なマイクロ波合成装置が販売されていることを知り、装置を導入するに至った。装置上部に放射温度計を取り付けることにより、合成中における試料の温度計測とマイクロ波照射へのフィードバックが可能となった。また、マイクロ波合成装置で用いる反応容器について、材質・形状・原料搭載方法などの検討を行い、透明な石英製容器の蓋を導入したことで、内部観察も可能にすることができた。1年目中に安定した硫化リチウム合成ができるようになったため、今後の研究進行速度の加速が期待できる。 3つ目は、硫化リチウム電池およびクレイ型正極の作製法の初期検討である。既に硫化リチウムを用いたクレイ型正極での充放電試験を実施しており、充放電に成功している。また、電池作製プロセスを安定・効率化させるために、コインセルのカシメ機をグローブボックス内に導入した。しかし充放電容量はまだ十分ではなく、合成条件や電池作製条件を再検討するなど、今後も継続的な進展が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画調書では研究目的達成のためのロードマップを示したが、2年目では、マイクロ波合成装置による合成条件の検討やクレイ型電池作製プロセスの確立を目指す予定であった。「現在までの進捗状況」にて述べたように、1年目ではおおむね順調に研究が進行したため、基本的には当初の予定通り研究を遂行する。 マイクロ波合成装置の導入が完了し、短時間で安定した合成が可能になったため、基本的な合成実験は市販の電子レンジではなく本装置を利用して行う。マイクロ波照射時間・照射方法・温度制御などの合成条件を変更し、合成した硫化リチウムを電池試験により評価する。1年目の合成原料の検討において、資源的に豊富で安価な硫黄自体を利用できる可能性が示唆されたため、硫黄と様々なリチウム塩を用いた合成にも挑戦する。熱力学的な合成可能性を示したエリンガム図(横軸に温度、縦軸に生成ギブズエネルギーをとって、各温度における標準生成ギブズエネルギーをプロットしたグラフ)を作図し、合成可能性の高いリチウム塩について順次検討していく。また、リチウム系以外の正極材料、例えばカリウム系の酸化物や、硫化カリウムの合成にも挑戦する。 コインセルのカシメ機をグローブボックス内に導入したため、安定で効率的な電池作製プロセスが実現可能になった。今後は様々な条件で合成した硫化リチウムを用いて電池試験を実施する。一方で、充放電装置が不足する状態に陥ってきたため、2年目ではマルチチャネルの充放電装置を導入する予定である。また、硫化リチウムクレイ型正極の作製に並行して、扱いの容易な硫黄単体を用いてクレイ型正極の作製プロセスの確立を行い、得られた知見を硫化リチウムクレイ型正極にフィードバックする。
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次年度使用額が生じた理由 |
グローブボックス用ガス循環精製装置を別で調達することができたため、マイクロ波合成装置の導入のみに予算を使用したため。一方で、研究が順調に進行し、充放電装置が不足する状態に陥ってきたため、2年目ではマルチチャネルの充放電装置を導入する予定であり、2年目の予算だけでは不十分であるため次年度使用額を利用する。
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