本研究では、細菌の薬剤耐性を抑制するターゲット遺伝子の探索を目指し、大腸菌網羅的遺伝子欠失株ライブラリを用いた網羅的探索を行った。混合培養した大腸菌遺伝子欠失株ライブラリを高濃度の抗生物質に曝した際の各欠失株の頻度の変化を、各欠失株に挿入されている識別配列を用いて検出した時系列ダイナミクスデータを取得し、集団のほとんどの株が死滅する中で生育を示した(薬剤耐性)株の候補を得た。個別検証の結果、候補の一部についてはライブラリ構築時に使用したプラスミドの残留によるものであることが明らかとなり、ライブラリの問題点の発見に繋がった。得られた候補株の遺伝子欠失変異を、接合伝達機構を利用して網羅的遺伝子欠失株ライブラリに導入し、二重変異株を網羅的に作成して薬剤下での生育度を調べることで、薬剤耐性を抑制するターゲット遺伝子を見つける計画であったが、所属の変更とCOVID-19感染拡大防止措置により、当初使用する予定であった大腸菌コロニーを寒天培地上に整列するロボットを使用できなくなったため、現所属機関の保有する機器で代替するための検討を行なった。その結果、コロニー整列ロボットの器具を現所属の自動分注装置のアームで運ぶための装置の作製により、コロニーの植菌・整列が可能となった。候補株遺伝子欠失変異を遺伝子欠失株ライブラリの全ての株に網羅的に導入するため、Hfr(high-frequency recombination)株の構築を行なったところ、接合伝達効率が非常に低い結果となった。接合伝達効率上昇のための検討を行ったが二重欠失株4000コロニーの安定的な生育が得られず、研究期間内に網羅的二重欠失株の生育度測定を行うことができなかった。予定していた網羅的二重欠失株生育度測定実験を行うことができなかったため、未使用額300万円を返還した。
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