研究課題/領域番号 |
20K16019
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研究機関 | 長崎国際大学 |
研究代表者 |
縄田 陽子 長崎国際大学, 薬学部, 講師 (00435140)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カンナビノイドCB1受容体 / 発達障害 / 行動薬理学 / 自閉スペクトラム症 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、カンナビノイドCB1受容体遺伝子欠損(CB1KO)マウスを主な研究ツールとし、脳内エンドカンナビノイドの低下による自閉スペクトラム症(ASD)発症の可能性を探ることにある。 令和2年度は、CB1KOマウスが行動学的にASDに類似する症状を表すかを追究した。行動試験は、①ソーシャルインタラクション試験(社会性の評価)、②高架式十字迷路試験および恐怖条件付け試験(不安水準の評価)ならびに、③Y-迷路試験(記憶機能の評価)を実施した。実験動物は、幼若期(5-7週齢)と成熟期(9-20週齢)に分けて用いた。 この結果、高架式十字迷路試験では、CB1KOマウスのオープンアームでの滞在時間は野生型マウスと比較し有意な増加が認められた。また、恐怖条件付け試験では、野生型マウスで認められるすくみ行動の発現は、CB1KOマウスにおいて有意に減弱した。次に、Y-迷路試験では、CB1KOマウスの交替行動は、野生型マウスと比較し有意に低下し、交替行動の障害が認められた。これらのCB1KOマウスでの行動変容は、いずれも幼若期においてより顕著であった。一方、ソーシャルインタラクション試験を用いた成熟マウスの社会性行動は、野生型マウスとCB1KOマウス間で有意な差は認められなかった。現在、幼若マウスにおいても同様に実験を進めている。 以上の結果から、CB1KOマウスは、不安様行動の減弱が認められること、および空間認知機能に障害がある可能性が示唆された。一方で我々は新奇物体探索試験用いたCB1KOマウスの物体再認知機能は、野生型マウスと差がないことを明らかにしている。今回実施したY-迷路試験では、CB1KOマウスは固定のアーム間を行き来する行動を示したことから、Y-迷路試験での交替行動の減少は、一部のアームへの固執あるいは常同行動を表している可能性も考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は、CB1KOマウスが行動学的にASDに類似する症状を表すかを調べることを主目的とした。まず、実験系として既に確立していた高架式十字迷路試験、恐怖条件付け試験およびY-迷路試験を用いCB1KOマウスの行動解析を実施し概ね完了した。一方、ソーシャルインタラクション試験およびT-迷路試験は、野生型マウスを用いた実験系の確立から行った。現在は、野生型マウスでの実験を確立させ、CB1KOマウスを用いた行動解析を進めており、令和3年度前半に完了予定である。 令和2年度の研究結果からCB1KOマウスは野生型マウスと比較し不安水準が低いことが明らかになった。臨床では、ASD児は不安水準が高いことが示唆されており、臨床像とは一致しない結果となった。一方、Y-迷路試験ではCB1KOマウスは交替行動の障害が認められ、空間認知機能に障害がある可能性が示された。この結果は、常同行動との関連性を視野に入れ令和3年度に引き続き検討を行う。 令和3年度以降は、ASDに関連する可能性が示唆されている分子の変容を調べることを計画している。そこで、令和2年度は一部の生化学的実験の基礎検討を進めた。さらに、本研究の目的の1つはエンドカンナビノイドに着目したASD治療を目指した創薬であることから、エンドカンナビノイド分解阻害薬を用いた行動薬理学的な基礎検討も進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、引き続きCB1KOマウスの行動解析を進めるとともに、脳内および血中のASD関連分子の変容を調べる。行動解析では、ASDの中核症状である社会性行動や常同行動に焦点を当て、マウスの行動試験としてはソーシャルインタラクション試験、T-迷路を用いた逆転学習試験等を実施する。また、ASD発症に関わる数多くの遺伝子が明らかにされているが、近年ASD児の血中での低下が示されているprogranulinに着目し、脳内(前頭前皮質、扁桃体、小脳等)および血中における発現量の変容を調べる。令和4年度以降は、継続してCB1KOマウス脳内におけるASD発症に関わる分子の発現変容を追究するとともに、エンドカンナビノイド関連薬物によるASD様症状に対する改善効果の有無についても検証する。 なお、ASD発症には、遺伝的要因と同程度で環境要因の寄与が大きいと考えられている。特に、病的な症状の発症にストレスに対する脆弱性が関わることが示唆されている。すなわち、無処置下ではCB1KOマウスにおける行動変容および生化学的変容が認められない可能性が十分に予測される。そのような結果が得られた場合は、ストレス負荷等の環境要因を実験に取り入れ、よりASDの臨床像に即した研究へ軌道修正する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、マウスの行動解析を中心に実施したことから予定よりも物品費を必要としなかった。次年度は、ELISA等の生化学的検討を主として実施予定のため、当該年度を上回る物品費を必要とする見込みである。したがって、研究費は計画的に使用できているものと考えている。
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