本研究では、足場として超微細シリカファイバーでできたCellbedを使った新規3D培養系”tissueoid cell culture system”を用いた。従来からの2D培養群(以下、2D)、本システムを用いた3D培養群(以下、3D)、舌がん細胞をヌードマウスに異種移植したxenograft群(以下、xenograft)の3群を作成し、舌がんの代謝解析とミトコンドリア機能解析を行った。代謝解析のクラスタリング解析では、2Dではほとんどの代謝物のピーク値が著しく低かったが、3Dとxenograftではピーク値が高く類似している代謝物が多かった。ミトコンドリア機能解析では、呼吸鎖関連酵素の発現は2Dでは低く、3Dとxenograftでは高発現を示した。また、進行がんの細胞株では酸素消費速度は2Dより3Dの方が高値であった。以上より、2Dと3Dでは舌がん代謝は大きく異なっていた。2Dでは生体とは異なる条件下で生き抜くために特殊な代謝が行われていることが示唆された。一方、3Dではミトコンドリア機能は障害されておらず、3Dとxenograftでは栄養素や酸素を有効に使ってbiomass生合成、酸化的リン酸化によるATP産生、酸化還元バランスの維持を行っていることが示唆された。生体がん組織の形態と機能を模倣できる3Dの代謝解析ではこれまで報告されてきたがん代謝の理論に合った結果が得られた。 さらに、本システムにコラーゲンIVを添加した群(以下、ColIV)と添加していない群で舌がん細胞を3D培養した結果、ColIVでは舌がん細胞の浸潤能や増殖能の亢進を示した。本システムを用いて代謝解析を行って検証した結果、ColIVでは総アセチルCoA関連アミノ酸総量などが有意に高値であった。コラーゲンIVはがん細胞の増殖、侵襲性に関与している可能性が示唆された。
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