研究課題/領域番号 |
20K16441
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
光藤 傑 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (00828410)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 腫瘍関連マクロファージ / 化学療法抵抗性 |
研究実績の概要 |
膵がんは他がん腫と比較し予後が悪く5年生存率は約9%であり、切除可能であっても術後70%に転移再発を認めることから、さらなる集学的な治療の発展が必要とされている。 M0マクロファージは炎症応答を引き起こすM1マクロファージや、腫瘍増殖に関与するM2マクロファージに分化することが知られており、後者は腫瘍関連マクロファージ(Tumor-associated macrophage:以下、TAM)と呼ばれる。近年、TAMとの相互作用により、がん細胞の悪性能や治療抵抗性が増悪することが報告されているが、未だTAMを標的とした治療法は確立されていない。 これまで共同研究施設では、ゲムシタビン耐性を獲得した膵がん細胞株(Panc-1)の培養上清で亢進しているフコシル化タンパクの解析から、70kDaのMac2-binding protein (以下、M2BP)の産生が亢進していることを見出した。フコシル化されたM2BPを最も強く認識する抗体を作成し、膵がん切除検体を用いた免疫染色を評価すると、M2BP陽性のTAMが腫瘍周囲に浸潤していることが示唆された。本研究では、M2BPがTAMを介して膵がんの化学療法抵抗性を生み出すという仮説を立て、膵がん細胞とTAMが相互作用するメカニズムを解明することで膵がん治療の発展に貢献することを目的とした。 まず、膵がんに対して根治切除術を施行した切除サンプルを用いて免疫組織化学染色を行いTAMの評価を行った。 次に、膵がん細胞と共培養するM2マクロファージをTHP-1細胞(ヒト単球由来細胞株)より誘導した。THP-1細胞にPMA刺激を与えることでM0マクロファージが誘導され、さらにIL-4刺激によってM2マクロファージが誘導された。膵がん細胞とM0マクロファージの共培養によってマクロファージの極性変化が生じるか検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
膵がんに対して根治切除術を施行した切除サンプルを用いて免疫組織化学染色を行いTAMの評価を行った。2010年10月から2018年11月の間に当科で膵がん根治術を施行した211例の内、術前未治療膵がん33症例を対象とした。汎マクロファージのマーカーをCD68、M2マクロファージのマーカーをCD163とし、単位面積当たりにおけるマクロファージの平均個数を用いてHigh群とLow群に分類した。High群とLow群の2群間において、無再発生存期間や全生存期間のいずれにおいても有意差は認めなかった。 次に、膵がん細胞株と共培養するM2マクロファージをTHP-1細胞より誘導した。THP-1細胞にPMA刺激をすることで接着細胞となり、CD68を用いた蛍光免疫染色によってM0マクロファージが誘導されたことを確認した。さらにIL-4刺激後にM2マクロファージのマーカーであるCD204を用いた蛍光免疫染色によって、M2マクロファージが誘導されたことを確認した。 膵がん細胞Panc-1の親株とゲムシタビン耐性株における70kDaのM2BP発現を蛍光免疫染色とWestern Blottingを用いて評価した。いずれの細胞株においても70kDaのM2BP発現をみとめ、親株と比較してゲムシタビン耐性株において70kDaのM2BP発現が高いことが示唆された。また、M0マクロファージを膵がん細胞Panc-1の親株やゲムシタビン耐性株と共培養した後に70kDaのM2BP発現を蛍光免疫染色で評価したが、いずれの膵がん細胞株と共培養したM0マクロファージにおいて70kDaのM2BPの発現は認めなかった。
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今後の研究の推進方策 |
M2BPは生体内で90kDaの糖タンパクとして存在しているが、ゲムシタビン耐性を持った膵がん細胞株(Panc-1)のlysateと培養上清において、70kDaのM2BPの発現が親株と比較して上昇していた。膵がん細胞の親株とゲムシタビン耐性株を用いて、それぞれのlysateと培養上清における親株と耐性株での90kDaと70kDaのM2BPの発現量の違いを評価する。 先行研究において、70kDaのM2BPに対する抗体とTAMのマーカーであるCD206を用いて膵がん切除サンプルの蛍光二重免疫染色を評価したところ、両者の共局在を認めたことから、TAMの一部に70kDaのM2BPが存在することが示唆されている。この結果よりM0マクロファージにM2BPが作用することで、M2マクロファージが誘導されている可能性が示唆された。膵がん細胞との共培養でM0マクロファージがM2マクロファージに誘導されるかどうかを検討する。またM2BP刺激によってM0マクロファージがM2マクロファージへ誘導されるかどうかを検討する。 さらに、M2マクロファージが膵がん細胞の腫瘍増殖能や遊走/浸潤能、化学療法抵抗性を誘導するか検討するためにM2マクロファージと膵がん細胞の親株を共培養し親株に作用した物質を同定する。マウスを用いたM2BPの有無における腫瘍増殖や化学療法抵抗性の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症に関する緊急事態宣言発令等により、研究の進捗状況に遅れが生じたため
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